引用を使って、伝わる話をする
人の心を動かすことができる話し手には「引用がうまい」という共通点がある。日常的に蓄えた様々な言葉やデータなどの知識やメディアなどで得た情報を、ほんの少し手を加えて話の中に取り込んでいる。
引用は、自分が伝えたいことや主張を補完し、拡張し、押し上げてくれる役割を果たす。話が引用によって展開され、進化して、どんどん面白くなって、人を引き込んでくれる。
引用力が高いということは「多くの言葉や情報の引き出しから、最適な材料を取り出し、話題をパワーアップさせる」力が強いということである。引用力を高めるためのポイントは次の通り。
①「言葉の引き出し」を作る
自分が持っている言葉や表現に加えて、書籍、新聞、過去の経営者のスピーチ、身近な人の体験談、興味深いデータ、深くていい話など、自分の頭の中で、多様な表現や話題、知識を整理しておく。
引用の引き出しを増やすコツは、自分の心に響いた言葉を意識して記録や記憶すること。気に入った1冊の書籍、1つの映画や小説、興味を惹かれた日常の出来事など、日々の体験を大切にすることから始めるといい。
②話に合った引用のパターンを作っておく
引き出しから材料を選りすぐって取り出し、最適な場面や部分で、ピッタリはまる引用をすること。いかに今この話に必要な内容を取り出すかが大切である。「◯◯の話題ならXの話」というように自分の中でパターンを作っておくことで、その場にピタリとくる引用ができるようになる。
引用をする上で大切なこと
引用を使って相手にインパクトを与え、心にグサッと刺さる、伝わる話をしようと思った時には「伝える目的を整理する」こと。「理解してもらう」「納得させる」「感銘を与える」「楽しませる」などの目的を明確にして、話を組み立てて、目的に合わせて主張をサポートできる言葉やデータを引用する。
「自分が伝えるべきことは何か」を意識して、自分の主張を強めるような引用をすることが大切である。
刺さる言葉を作る「引用レシピ」
①鮮明なイメージにする
話を聞いていてイメージが湧いたり、味が想像できたりすることがある。「自分が知っている何か」に置き換えたり、名言などで置き換えたり、ストーリーの流れで頭に浮かべたりすることで鮮明になる。
- 五感を刺激する言葉でイメージを想起させる
- 鮮明なイメージが浮かぶ言葉を選ぶ
- ストーリーに乗せる
- 絵に浮かびやすい言葉を選ぶ
②数字を生かす
数字やデータを引用することで曖昧さが回避できて、確かな根拠が示せ、話の信用につながる。
- 知っているもので大きさを見せる
- より数字の効果が強まるデータの母体を選ぶ
- 大きな数字は縮小して割合をくっきりさせてイメージしやすくする
③信頼度を高める
伝えたい内容の信頼度を高めるために、達人や先人の知恵を借りる。実績のある人の言葉を引用することで、自分の発言の下支えや根拠にもなり、伝えたい内容がより強く信頼されるようになる。
- 経験や実績のある人物の知恵で信頼度を高める
- 力強く心に響く言葉の下支えで、主張を揺るぎないものにする
- 言葉を発した人と言葉のパワーを借りて武装して力にする
④パワフルにする
客観的なデータの提示に加えて、心が動くような引用をしたり、逆に否定をすることで主張を強めたりと、ちょっとした工夫をすることで、大きく印象を変えることができる。
- 決断を後押しするデータの存在意義を強める言葉を使う
- 背中を押す、突き抜けた言葉を加える
- 否定することで、伝えたいことを強めて肯定する
- 一見違う言葉もその本質を見極めて、効果的に生かす
⑤シンプルに刺さる
短く、シンプルで、インパクトが大きく、これ以上かみ砕けない核心をついた言葉がある。そんな言葉を引用することで、聞き手に刺さるようになる。
- 短く覚えやすく、語感がよく、端的に深い意味を含む言葉を生かす
- 言葉の解釈、概念、背景を生かしてハッとさせる
- 言葉をそぎ落としてシャープにする
- 端的な表現で、説明をわかりやすくする
- 専門用語を使わず、聞き手に理解できる言葉に言い換える
引用を使い分ける
引用が上手な人は、次の2つを使い分けている。
①多くの人が知っている言葉の引用
多くの人が知っている言葉は、引用だとわかることで安心感を与えたり、パロディとしてクスッと笑えたり、話が盛り上がったりと、聞いている人を話に巻き込み同調させる効果が期待できる。
②知られていない言葉の引用
多くの人が知らない言葉は、引用した人の知識や話の引き出しの多さを感じさせる。
聞き手の年齢・年代、共有する文化的背景によって、引用した内容の認知度は大きく変わるため、いずれの引き出しを開ける時にも意識する必要がある。