コンテクスト・マネジメント 個を活かし、経営の質を高める

発刊
2023年9月21日
ページ数
424ページ
読了目安
634分
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競争優位は組織プロセスから生まれる
企業の競争優位の源泉は「組織プロセス」にあるとする経営政策のプロセス学派が唱える戦略論。
組織の意思決定のあり方に着目し、いかに優れた組織能力を構築すればいいのかについて、これまでの経営戦略論が積み上げてきた研究内容を踏まえて、紹介されています。

様々な経営戦略論の要点を振り返りながら、経営者リーダーにとって、必要となる経営の考え方を学ぶことができます。

経営とは組織能力を向上させること

組織とは、人と人が集まって生まれる協働体である。1人ではできないことを成し遂げるために組織が生まれる。一方で、1人でいる時には考えられないことが起こる厄介なものである。そんな組織をうまく使いこなすことが経営に他ならない。

組織にはもう1つ大切な役割がある。組織は、市場と対峙・協働しながらイノベーションを起こすことができる。組織は知恵の貯蔵庫であるからである。組織の中には、人が入れ替わってもノウハウやナレッジ、スキルが残る。

 

経営者の役割は、人と組織の力をよりよく引き出す「経営の質」を向上させることにある。

 

競争優位は組織プロセスから生まれる

戦略分析は仮説を立てる上では役に立つが、それだけで成功を約束するものではない。戦略は、策定から実現までの組織内におけるプロセスから生まれる。競争優位のエッセンスは、このマネジャーたちの一連の行動がつくり出す、組織のプロセスの中に宿っている。

 

経営陣の意図によってつくり出される社内の環境や仕組みを「企業コンテクスト」と呼ぶ。これが現場のマネジャーの行動を引き出し、組織内の有効なプロセスを誘発・形成する。戦略分析論が後付けで称賛するような行動は、企業コンテクストが生み出した成果物なのである。

 

組織における意思決定と行動のメカニズム

合理的行動主体モデルでは、組織の意思決定や戦略策定は、大きな脳みそを持った全知全能の人間が論理的・合理的に分析し、慎重に計画し、実行をコントロールするという風に考える。しかし、実際には組織がそんな単純なやり方で意思決定はしない。そもそも情報は不完全で未来は不確実性に満ちていて、しかも意思決定には、エゴや感情、異なるプライオリティを持つ様々な人たちが関わる。

組織による意思決定と行動を考察するフレームワーク「コンテクスト・マネジメント」では、意思決定と行動のプロセスを次の2つに分ける。

 

①定義化プロセス

機会や課題の発見・定義、イニシアティブの形成に関わるプロセス。このプロセスを主導するのは、現場に近い第一線の研究者や技術者、営業担当者である。機会や脅威を発見できるのは、顧客や技術に近い人たちであり、ここから新規の提案が上がってくる。

 

②機動力プロセス

定義化プロセスによって生み出されるプランが経営トップに伝えられ、事業化に至るまでには、様々なハードルを乗り越えるための「機動力」が求められる。現場が頑張って出してきたアイデアが実現するためには、部長や本部長といったミドルのサポートや擁護が必要なのである。ミドルは、現場から上がってくるプランのイニシアティブの質を見て取捨選択する。

 

このルールでは、最後の最後に、トップはミドルの過去の戦績を見る。組織のトップは、有能なミドルが立案する戦略が最低限の条件をクリアしていることを知っているからである。そのため、プラン自体ではなく、プランを提案してくるミドルに対してどれほど信頼を置けるかという観点で資源配分の判断を下す。

 

こうしたボトムアップのプロセスにおける経営トップの役割は何か。トップは、企業理念、パーパス、戦略志向、組織構造、経営管理システム、組織としての人格(行動規範、企業文化や組織風土)といったものの設計や構築を通じて「企業コンテクスト」をつくり出すことによって、意思決定に間接的な影響を与えるのである。

現場やミドルの行動は、経営トップが組織内につくり出したコンテクストの中で展開され、コンテクストに影響を受けている。企業コンテクストは大きく3つに分けて考えられる。

 

①戦略のコンテクスト

自分たちがどのような企業を目指し、何を活動のドメインとし、人と社会にどんな貢献をすると約束するのかといった方向性や目標。ミッションやパーパス、企業の戦略的方向性、より具体的な戦略目標もここに含まれる。

 

②経営管理のコンテクスト

情報の管理や共有、予算策定(中期計画、年次予算、資源配分)、人事管理(評価、昇進、報酬の仕組み)のシステムなど。

 

③組織行動のコンテクスト

その企業で奨励される社員の行動や社員同士の関係性。これには、行動規範として明示されているものもあれば、企業文化や組織風土として暗黙の内に共有されているものもある。

 

経営者はこれら3つのコンテクストをデザインし、運営し、その中に魂を吹き込むことによって、現場やミドルのマネジャーの意思決定や行動に間接的ながらも影響を及ぼし、複数の行動主体の意思決定と行動が集合的に織りなす組織内のプロセスを誘発していく。

 

組織能力はどのように形成されるのか

有効な組織プロセス、良い組織能力のために求められる企業コンテクストを考えるには「学習する組織」が手がかりとなる。学習する組織とは、知識を創造、習得、移転する能力を有し、新しい知識や洞察を反映させながら既存の行動様式を変革できる組織である。具体的には、次のような組織プロセスが見られる。

  • 他社のベストプラクティスから貪欲に学ぶ
  • 失敗から得た教訓を未来の行動に反映させる
  • 過去にとらわれず、環境変化に迅速に対応する
  • 組織内で水平・垂直に学習を共有する

 

トップはどんなパーパスや戦略的方向性、目標を掲げているか。情報共有システムや人事評価システムはどうなっていて、失敗からの学びを全体で共有できる仕組みはどの程度整っているのか。行動規範はどのようなものが定められていて、トップの言動は、現場やミドルの率直かつ誠実な行動をどのくらい促せているのか。これら一連のことを考える必要がある。