市場全体を俯瞰する視点を持つ
大きくヒットする商品開発は「気づきのアンテナを立てる力」が高くないとできない。商品の持っている「特徴」や「強み」を見つけたり、色々な障害になっている「壁」の存在に気付いたりするのにも「気づく力」が必要になる。
「気づく力」の基本は、高い位置から広い視点で市場を眺めること。森、林、木の視点から数値ですべて話せるようになると、伝わりやすい。
- 森を見る視点
市場規模や伸び率、人口動態などのマーケットの変化の方向を考え、その中でお客様がどんなことに不満を持ち、不便を感じているのかを探る。 - 林を見る視点
商品のコンセプトを踏まえて、自分たちの強みや独自性を言語化し、ターゲットとすべきお客様のセグメントを明らかにする。 - 木を見る視点
競合の存在を意識し「原料・配合・工程」で他と差別化し、デザインやキャッチコピーなどでその違いをお客様に訴求していく。
「気づく力」が最も必要とされるのが、最初の「森→林」のステップである。この森の視点の気づき力で、商品が売れるか売れないかは8割方決まると言っても過言ではない。
一次情報から仮説を立てる
気づきのアンテナを立てるコツは、仕事と生活を分離しないことが大切である。これは、商品を買ってくださるお客様は生活者であって、プロではないという視点を持つことである。プロの常識が、一般人であるお客様の常識と同じであるとは限らない。商品開発では、お客様の立場を理解して開発することが大切になる。
生活者の感覚を得るためには、「仮説を持って街を歩く」ことが一番である。現状分析をした上で仮説を立て、実際に店舗や産地に行く。ここで大切なのは「一次情報」であり、現地・現物・現実を知ること。生情報のインプットがなければ、現状分析ができず仮説は立てられない。
この仮説のよって立つところは、「不満」や「不便」の解決、お客様の「不」の解消である。そこが商品開発の軸になる。
商品開発の基礎
バイヤーは商品を次の4つの切り口で見て、これらをクリアする商品を開発もしくは品揃えをする。
①品質はいいか(おいしいか)
商品企画・設計のポイントを、それぞれ「原料・配合・工程」の3つの要素に分解して、ヒットした要因やダメだった要因を考えてみる。商品を図式化して自分で方程式をつくれるようになれば、何が売れた要素だったのかがわかる。
定番の商品の原材料や味付けは、どれも日本人が好きなものばかりである。つまり、ヒット商品は、日本人が好きなものを掛け合わせるところから生まれる。食品業界で直近の1年間に大きく売れたものを見ても、完全な新商品はほとんどない。定番の商品を磨き込んだものか、基本的な素材同士を掛け合わせたものばかりである。結局、人の好みというものは、時代が変わってもそう大きく変化せず、いつの時代も王道カテゴリーが強い。
だから、定番の素材、定番の味付け、定番の調理法を「原料・配合・工程」の中で組み合わせることで、新たなヒット商品を生み出すことができる。
②売れるか(値ごろ感があるか)
お客様に「買おう」と思って頂くための1番のポイントは「値ごろ感」(コスパ)である。「売れる」商品をつくるためには、品質と価格のバランスが不可欠である。どんなに品質が良くても、お客様の望む価格帯から外れてしまえば長続きして売れない。
大切なのは、事前にきちんとマーケット調査を行って、その商品についてお客様が「これくらいの値段だったら買っていい」と考えている価格帯を把握し、商品開発を始める段階で価格を決めておくことである。その上で「原料・配合・工程」の中のどの部分を工夫して目標を実現していくかを詰めていく。
品質と価格を詰めていき「このクオリティでこの値段でいいの?」という驚きを誘うくらいの値ごろ感が出て、その商品が定番であるほど、不動の人気を確立することができる。
③儲かるか
お客様の「値ごろ感」が一定であり、商品設計で価格が先に決まった場合、「利益」をつくるためには、その売値に見合った水準までコストを下げなければならない。そのために、例えば次のような工夫をする。
- 商流改善(例)直接取引に変更する
- 原料改善(例)複数部門で原料を共有する
- 生産/製造改善(例)空いている製造ラインでつくる
- 物流改善(例)コンテナ単位で買い付ける
④他社にないか
王道の食材や味付けでも、これまでにありそうでなかった組み合わせを見つけ出せれば「他にない」新商品になる。ここでも「原料・配合・工程」という因数分解を使う。
どの時代でも売れる王道なカテゴリーの中で「ここでしか買えないもの」は何かを考えながら、差別化した商品開発を行う。そういう考えてつくったものは、長く売れ続ける。
商品設計と伝達設計の両方を常に考えて動く
商品を開発する場合、商品そのものの企画をしながら、それと同時に、その良さをどう伝えていくかを考える必要がある。