アイデンティティドリブン事業創造とは
デジタル時代の戦略やサービスは模倣性が高く、同質化が進みやすいことから、生活者に選ばれ続ける持続性の高い事業を創ることは極めて困難になっている。さらに、生活者の価値観が多様化・複雑化している中で、世代や性別、年収といったデモグラフィックデータの活用による従来型の生活者理解に基づく事業創造アプローチは限界を迎えている。
こうした変革の時代において企業が成長を続けるためには、「アイデンティティドリブン(共鳴型)」と呼ぶ事業創造モデルが求められる。生活者の行動の背景にある価値観・アイデンティティを捉え、企業が持つ強み・アイデンティティと共鳴させることで商品・サービスの開発・提供を目指すモデルである。
ここで言うアイデンティティとは、顧客となる生活者の嗜好や生活スタイルなどの内面に根付く価値観と、商品・サービスの提供者となる企業の存在意義やそれをどのような方法で価値として提供するかという、企業としての独自の考え方の両方を指す。この両方を踏まえ、その共鳴点を探る事業創造のアプローチが必要である。
企業のアイデンティティをもとに、顧客との関係をつくる
企業は生活者の価値観に合うものを提供し、生活者は企業の理念や狙いに共感し、その企業の商品やサービスを競合する他の企業やブランドのものより優先して選ぶ。この際にポイントになるのが「共鳴の強さ」である。いかに多くの生活者に共感してもらえるかと同時に、いかに長く選び続けてもらえるかという視点が欠かせない。
こうした観点から重視されるのが「LTV(顧客生涯価値)」である。生活者1人1人に向き合って顧客を「ファン化」し、継続的な取引を行い、中長期的な利益創出を図る。LTVを向上させるために必要なのは、「生活者起点に立って考え抜かれた商品・サービスを提供すること」「常に顧客の期待を超える価値を提供し続けること」といった顧客との緊密な関係作りである。
生活者のライフスタイルに寄り添いながら、一方で企業が確たる信念や個性を持ち、それをもって生活者のライフスタイルを先導してアップデートする。この2つを絶え間なく繰り返し行うことが、顧客との継続的かつ長期的な関係の構築につながる。
生活者のアイデンティティを知る
アイデンティティ共鳴型事業を創るための最初のステップが、顧客が大切にしている価値観・ライフスタイルの理解である。目の前で変化を続ける消費者の価値観を正しく、深く理解することが欠かせない。この生活者の価値観は「14の価値観」として整理することができる。
- 安全で健康に過ごしたい
- 休息したい
- 愛着を持ちたい
- 好奇心を満たしたい
- 創作したい
- 自己を強化したい
- 共感したい/されたい
- 個人の自由を大切にしたい
- 自分を表現したい
- 親密な関係を築きたい
- 社会と交流したい
- 影響力を持ちたい
- 恩返ししたい
- 高い目的を持ちたい
新しい時代において、顧客との継続的な関係性を可能にする事業を実現するためには、顧客のコア部分に迫るマーケティングが必要で、そこを起点として「アイデンティティの共鳴」を図る必要がある。だからこそ、生活者の価値観レベルで人を理解することが必要になる。
企業のアイデンティティを再定義する
アイデンティティドリブンの事業創造には、生活者のアイデンティティの理解に加え、企業が持つ強みや、それをどのような方法/体験で価値提供していくかという企業としての独自の考え方=企業のアイデンティティを再定義することが不可欠である。
顧客の価値観にまで踏み込んでニーズを見出し、自社の理念や保有するアセットに照らしてその実現方法を検討し、具体的な顧客体験に落とし込む。これが、企業が「共鳴するアイデンティティ」を作り出す唯一無二の方法である。
企業のアイデンティティとは、企業文化であり、他社が真似することが難しい個性と考えればいい。ポイントは、ただ再定義するだけでなく、どのように事業に反映させるかだ。アイデンティティを作り上げるには、企業の思想の「軸」を決めたら、それをあらゆる企業活動において徹底させること。商品・サービス開発から人材育成・企業の仕組み作りまでの全てのフェーズで、自分たちが軸とした価値が顧客に提供できているかを全社員が常に自問自答できる体制を構築することである。
アイデンティティ共鳴型ビジネスの仕組みを実装する方法
生活者の価値観と企業の価値観というそれぞれの異なる視点を「すり合わせる」ことで、独自の事業コンセプトを生み、自社のアイデンティティを体現する製品・サービスとして育て、価値向上させ続ける方法は次の通り。
①「14の価値」を活用しながら、顧客と企業双方のインサイトをすり合わせてコアバリューを作る
②「コアバリュー」を基に、顧客価値と事業性を両立させた独自性のある商品・サービスを創出する
③フィジビリティの検証と、サービスリリース後を見越したコミュニティ型仮説検証を行う