行動デザインとは
行動デザインとは「人がやりたがっていることを実際の行動に移させること」である。何かをやりたいということと、実際にそれをやるということは、必ずしも結び付いていない。行動デザイナーは仕事をする際、次の2つの心理学上の重要な真実を念頭に置いている。
- 人は、何かきっかけがないと行動できないことがよくある
- 人は、困難にぶつかるとすぐに諦めてしまう
行動デザイナーは、こうしたなまけ癖を打ち破る環境を整える。そのために必要なのが、次の3つである。
- ターゲット層が特定の行動に注意を向けるような「プロンプト(きっかけ)」を用意する
- その行動をできるだけ簡単にする
- ターゲット層の意欲に瞬間的に火をつけ、障害を乗り越える力を引き出す
フォッグ行動モデル
行動心理学者であるフォッグは「行動デザイン」と呼ばれるようになった分野の創案者である。このモデルは、人は何もないところから自発的に行動を起こすことはない、という前提から出発する。フォッグによれば、人間が行動を起こすには次の3つの条件が必要になる。
- 行動を開始するには、プロンプト(きっかけ)が必要である
- プロンプトに加え、モチベーションが十分に高くなければならない
- プロンプトに加え、行動が十分に容易でなければならない
プロンプトとは、特定の行動を取るように促す、あるいは思い出させるもののことである。例えば、目覚まし時計の音、スマホ画面のプッシュ通知などである。プロンプトが実際の行動に結びつくのは、その行動を起こすモチベーションとアビリティ(行動の容易さ)が十分に高い時のみである。
これは、プロンプト発生時点にモチベーションとアビリティの双方が極めて高くなければならないということではない。その相互作用が重要になる。どちらかの要素がそれほど高くなくても、もう一方の要素が非常に高ければ十分に補完できる。
効果的なプロンプトを作成する
ほぼすべての行動はプロンプトから始まる。プロンプトは多くの場合、単独では存在しない。最終的な目標となる行動にたどり着くまでに、いくつもの小さな行動が存在する。そして小さな行動の1つ1つが、それぞれのプロンプトによって引き起こされる。
多くの場合、最も難しいのは最初のプロンプトである。なぜなら、他の作業をしている訪問者の手を止めさせ、こちらに目を向けさせなくてはならないからである。訪問者の注意を引き、訪問者がプロンプトを目にした瞬間にどうすれば良いのか明確に理解できるようにする方法は次の通り。
- 注意を引く:動くもの、目立つもの、人、動物、強い感情表現、この内どれかを使って注意を引く
- プロンプトの数を減らす:プロンプトのせめぎあいを避けるために、可能な限り1つまでプロンプトを減らす
- アフォーダンス:プロンプトを見た瞬間に、クリック/スクロール/スワイプ可能だとわかるようにする
- 求める行動を言葉で示す:求める行動を、指示や命令する言葉を使って示す
訪問者の注意を引くために使えるプロンプトの戦略は次の4つである。
- 好奇心:訪問者の好奇心をかき立て、クリックする気にさせる
- 破格のお得情報:うますぎるお得情報で訪問者をその気にさせる
- やさしい質問:わかりやすく答えやすい質問を訪問者にする
- 未完了タスク:求められる行動を取ることが、合理的な次のステップであることを示す
プロンプト作成時にこれらの戦略を使うことで、その行動を起こすモチベーションを大幅に高めることができる。
モチベーションを高める
フォッグ行動モデルの3要素(モチベーション、アビリティ、プロンプト)の内、最も影響を与えるのが難しいのがモチベーションである。特定のゴールを達成しようというモチベーションは、そう簡単には作り出せない。何かをしたいという欲求の度合いは、その人の経験や社会的環境、メディアなどに左右される。そのため、モチベーションのない訪問者ではなく、すでに多少のモチベーションがある訪問者に焦点を当てるようにする。
行動デザイナーは、ここで次の戦略を用いて、人々の背中を押し、正しい方向へと導く。
- 未来への期待:将来的な報酬を視覚化することで訪問者の期待を高める
- 基本的欲求への訴求:自分の提案に関連する基本的欲求を見つけ、テキストやイメージで表現する
- 社会的証明:他の人たちも同じ行動を取っていることを、わかりやすく示す
- 権威:自分自身が権威であることを示すか、他人の権威を借りる
- ベイビー・ステップ:小さなステップを使うことで訪問者をその気にさせ、「大きな」行動へと進ませる
- 希少性:時間的・物量的な希少性を強調することで商品をより魅力的に見せる方法を考える
- ポジティブなフィードバック:惜しみなく褒める
- 損失回避:求める行動を損失の回避という観点から提示する
- 知覚価値:自分がどれほど努力したかを示し、訪問者にも努力してもらう
- 理由:なぜ訪問者がその行動をとるべきか理由を考え、その理由をデザインの一部にする
アビリティを高める
アビリティとは「どれほど容易にその行動を取ることができるか」である。目標とする行動が容易に取れるようにすることでアビリティは向上し、コンバージョンのチャンスも高まる。
フォッグによると、アビリティを左右する要素は5つある。
- 身体的労力
- 精神的労力
- 時間
- 習慣
- 金銭
これらの要素は1つの鎖と考える。鎖を構成する5つの輪の内で最も脆い箇所が、その行動を難しくさせている要素である。
- 身体的労力を減らす
- 精神的労力を減らす
- 可能な限り短時間にする
- 習慣を利用する
- 金銭的要素を考慮する