中川政七商店が18人の学生と挑んだ「志」ある商売のはじめかた

発刊
2023年3月25日
ページ数
368ページ
読了目安
360分
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新しくお店を立ち上げるために必要となる実践的な知識
中川政七商店と三菱地所によって企画された、学生が経営する地域産品ショップのプロジェクト「アナザー・ジャパン」立ち上げの記録。中川政七商店の13代目が、学生たちにショップ経営に必要な知識を実践的に教えた研修内容が紹介されています。

マーケティングのフレームワークから、ブランディングの方法まで、具体的にショップを立ち上げるために必要な知識が網羅されており、学生たちのフィードバックとともに実践的な内容が学べます。

学生が経営する地域産品セレクトショップ

三菱地所が東京駅日本橋口前に位置する常盤橋街区で開発を進めている「TOKYO TORCH」において、各地域出身の学生たちが自らの地元をPRすべく47都道府県地域産品セレクトショップを経営している。そのショップが「アナザー・ジャパン」である。最大の特徴は、戦略策定、収支管理、商品仕入、売り場演出、プロモーション、接客など、店舗経営をすべて学生だけで担う点である。

 

第1期店舗の開業前に、その経営を担う学生18人を募集。2022年3月に経営研修を開始し、2022年8月に開業した。研修講師は、中川政七商店会長、社員、アナザー・ジャパンのクリエイティブ・ディレクションを担った合同会社オフィスキャンプが務めた。

 

ビジョンをつくる

会社は、利益追求をする中で、社会貢献のバランスをどう取るか。ずれないようにするには、ビジョンが大きな役割を果たす。会社はビジョンを達成するために存在すると言い切れる。

中期経営計画は「ビジョン」と「競争戦略」が、定量的にも定性的にも書かれているもの。中期経営計画の策定は、アナザー・ジャパンのビジョンを考えるところから始まる。ビジョンは自分たちが目指すところで、ミッションはそのためにやるべきこと。

ビジョンをつくる時の注意点は3つ。

  • 聞いてテンションが上がるか
  • 背負えるギリギリの範囲か
  • 社会課題に連結しているか

 

ビジョンが伝えるのは「結局、何をしたいのか」。アナザー・ジャパンというお店の存在意義の宣言である。そのためのコツは、「アナザー・ジャパンがこういうことをする」という動詞になっていること。動詞にすることが成し遂げたいことの宣言につながる。

 

コンセプトをつくる

ビジョンは抽象的な言葉になることが多いので、お客さんには伝わりづらい。そこで「結局、何をやっているの?」をわかりやすく伝えるための要約が必要である。その役割を果たすのがコンセプトである。コンセプトを通じてビジョンや世界観を顧客に届けることができる。コンセプトをつくるためには「全体を貫く観点」が重要である。部分的な説明にならないように気をつける必要がある。

 

コンセプトづくりは次のように進める。

  1. 自分たちが何に向かい合っているかという要素を抽出する
  2. 出てきた言葉たちを物語的につないでいく
  3. 具体と抽象の行き来の中から、似ている何かを探す

 

コンセプトの良し悪しを見極める時に重要なのは、自分たちらしいかどうか。そして、物語が生まれているかどうかである。

 

競争戦略をつくる

どうやったら、売れる店、愛される店になれるか。そのために必要なのが「競争戦略」である。競争戦略は「ビジネスモデル」と「戦略」でできている。戦略とは要するに、何をやるかを決めるということ。逆に言えば、何をやらないかを決めることである。

戦略を実現するのが戦術である。戦略がないままに、戦術のトライ・アンド・エラーをいくら繰り返しても、大きな成果にはつながらない。また、戦略はコロコロ変えてはいけない。

 

競争戦略を考える時の肝は、3つのアプローチである。これらのプロセスの中で、どこかに勝てるポイントを見つけないといけない。あらゆるフェーズで、自分たちの「勝ち筋」を探し出すことを意識することが大切である。

 

①現状分析

現状分析のメジャーなフレームワークは、次の2つ。

  • 3C(顧客、競合、自社)
    商売で一番いいのは、競合がいない状態である。細かく見ていくと他の誰とも違う店ということである。そのためには、自分たちが何者かという定義やルールを変えることが大切である。
  • SWOT分析(内部環境の+-、外部環境の+-)
    強みと弱みに重点を置きながら整理する。

 

②マーケティング(市場起点のマーケティング)

マーケティングのメジャーなフレームワークは、次の3つ。

  • 4P(商品、価格、流通、販促)
  • STP分析(セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング)
  • AISAS(認知、興味、検索、行動、共有)

 

③ブランディング(自分起点のマーケティング)

ブランドとは「差別化され、かつ一定の方向性を持ったイメージにより、商品・サービス・会社にプラスをもたらすもの」である。ブランドは頭の中にできるイメージであって、それは全体からつくられる。その構成要素は、知りうる限りの情報全部である。その情報に接するタッチポイントからの情報の蓄積はブランドをつくる。

タッチポイントを人、モノ、メディアに分けて、そこに時間軸を入れる。すべてのタッチポイントをコントロールして、あるべきイメージをつくっていく。

 

ブランディングの定義は「伝えるべき情報を整理して、正しく伝えること」である。それは「コンテンツ×コミュニケーション」になる。コンテンツには次の3つのフレームワークがある。

  • ポジショニング:お客さんの視点でポジショニングを考える
  • コンテンツの3レイヤー:プロダクト、ライフスタイル、ライフスタンスで整理する
  • ブランドの組み立て:「歴史・背景」「志」「らしさ」をぐるぐる考えてストーリーにする