宇宙の果てまで離れていても、つながっている: 量子の非局所性から「空間のない最新宇宙像」へ

発刊
2019年3月5日
ページ数
352ページ
読了目安
557分
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宇宙はどのようにできているのか
宇宙の構造を説明するために必要となる、相対性理論と量子力学を統一した理論を研究する物理学者たちに取材をして、空間やブラックホールについての仮説を紹介している一冊。

世界は無秩序なのか

今、量子力学をはじめとする物理学の各分野では、場所も距離も、より深いレベルでは存在しないかもしれないという説が提案されている。物理学の実験では、2つの粒子の運命を結びつけて、一対の魔法のコインのように振る舞わせることができる。それらの粒子は、間に横たわる空間を伝わる力など一切存在しないにもかからわず、協調して振る舞う。これらの2個の粒子は、それぞれ宇宙の反対側に飛んで行って離れ離れになったとしても、一致した振る舞いをする。つまり、これらの粒子は局所性を破っている。要するに空間を超越している。

局所性という概念は、2つの側面を持つ。1つ目は「分離可能性」で、任意の2つの物体または1つの物体の2つの部分は、原理的には分離でき、分離したそれぞれを独立したものと見なすことができる。2つ目は「局所作用」で、物体と物体は互いに接触するか、あるいは間に存在する隔たりを埋めるために何かの媒介を使うか、いずれかの手段による以外、互いに作用しあうことはできない。

空間は存在しない

アインシュタインは局所性を基本原理として、相対性理論の中に捉えた。相対性理論は特に、光よりも速く動くことのできる物体は存在しないとしている。このような究極の制限速度がなければ、物体は無限に速く動くことができ、距離の意味はなくなってしまう。自然のあらゆる力は、一度の跳躍で空間を飛び越えるのではなく、空間の中を一生懸命進まねばならないと考えられてきた。

局所性は空間の本質である。物理学は、物質的実在、即ち物体が空間の中をどのように動くかを調べることに起源を持っており、距離、大きさ、形、位置、速さ、向きなど、物理学が扱うほぼすべての量は、空間によって定義されている。

ところが、量子力学は、2個の粒子が切っても切れない関係になり得ると予測する。結びつける方法が存在しないのだから、完全に独立しているはずなのに、片方に触れたら、もう片方にも触れたことになるという。影響が空間を飛び越えることができるのなら、空間は本当は存在しないのだという結論にたどり着く。

今日多くの物理学者は、空間と時間は、自然の根本的な要素ではなく、原始の宇宙の存在した何らかの非空間的な条件が生み出したものに過ぎないと考えている。

ブラックホールのパラドックス

物理学者たちは、もつれた2個の粒子の奇妙な共時性以外に、非局所性の現れではないかと疑うべき、不気味な現象に気づき始めた。ブラックホールの研究者たちは、宇宙のバキュームクリーナーのようなこの天体の内部にある物質は、ある場所から別の場所へと、間に存在する距離を通過することなしに、跳躍するのではないかと考えている。

ブラックホールの重力は極めて強力で、そこへ落ちたものは決して外へは戻ってこない。呑み込まれた物質はどうなるのか。物理学者たちが持っている2つの主要理論、重力理論と量子論は、呑み込まれた物質の運命について、正反対の結論を導き出す。重力理論は、物質は永遠にブラックホールに吸収されたままだとする。量子論は、物質は外に出て、宇宙の活動に参加し続けるはずだとする。この矛盾を解決するには、物理学の統一理論、量子重力理論が必要となる。そのような理論を追求している人々の多くが、非局所性こそが、その第一候補になるだろうと考えている。物質が光より速く移動したり、内側から外側へと、間に存在する空間を通ることなく跳躍できるなら、ブラックホールの拘束もすり抜けられるだろう。