成果を出す上で重要な外から見えない部分
業績を伸ばし続けた企業に共通するマーケティングへの取り組み、チームの人材の要件、業務の進め方といった、外部からは目に見えにくいけれど普遍性のあるOSを「マーケティング思考」と名付ける。マーケティング思考を、社内で顧客接点に関わるあらゆる部署の人に浸透させて「共通言語」とすることが、業績の持続的な向上には重要である。
事業成長をもたらすものは、外から見えやすくわかりやすい「何らかの唯一の施策」では説明がつかないことが大半である。外から見えやすい施策以外で非常に重要なものは、次の3つに集約できる。
①戦略:マーケティング施策の背景にある戦略
どのような顧客に、どのような価値を生むために、どのような施策に人やお金を投資配分するのかという方針
②知識・スキル:マーケティング施策実務を推進する組織メンバーの知識・スキル
組織メンバーがマーケティング施策を推進するための具体的な知識やスキル。これが乏しいと各種施策の成果が出ず、戦略は「絵に描いた餅」になる。
③社内外チーム連携:顧客体験の視点から、多くの施策をスムーズかつ効果的につなげる社内と社外の組織との密な連携
PR、広告、ウェブサイト、商品・サービス、購入後のカスタマーサポートなど、提供する部門や人が違っても、同じブランドの下で一貫した顧客体験を提供できる社内外の連携。
これらが良好だと結果として「外から見える部分」の施策のアウトプットが良くなる。
マーケティング思考
戦略、知識・スキル、社内外チーム連携の内、戦略は究極的には腕の良い1人が立てればなんとかなる。しかし、知識とスキルは組織メンバーに身につけてもらう必要があり、それをもって3つ目の連携を推進するという構造がある。
ここで組織メンバーに身につけてもらいたいのが「マーケティング思考」である。これは「誰に、何を、どのように」のフレームワークで説明できる。
・誰に?:どのような顧客に(顧客理解)
ターゲットとなる顧客層。価値観〜生活や潜在的/顕在化したニーズなどの顧客理解を含めて捉える
・何を?:どのような価値を(顧客価値)
顧客が嬉しい〜役に立つと感じられる効用全般。競合が認識されている市場では、市場競争で埋もれず選ばれるために「価値の中の独自性」を定義し焦点を当てる必要がある
・どのように?:どのような施策で届けるか(4P施策)
マーケティング4P施策で最適な施策を組み合わせて展開。商品・サービス、広告、PR、販路、価格など顧客との接点になるあらゆるものはすべて施策として考えられる
フレームワークはシンプルだが、入り口となる「誰に?」で、適切なターゲット顧客を選び、深い顧客理解を伴って定義できていることすら稀である。ましてやマーケティングに関わる広範囲な人々に、ターゲット顧客の理解と定義が共有化され、共通認識ができていることはさらに少ないのが実態である。
「何を?」も実効性のある深い定義が難しく、上手に定義できる人は多くない。「顧客価値」は、顧客へのヒアリングを通じて、以下の4つの視点で整理する。
- 機能的価値:商品・サービスの仕様そのものが顧客にもたらすもの
- 金銭的価値:商品・サービスの利用または将来の売却などで金銭的に得られるもの
- 社会交流的価値:商品・サービスの所有や利用を通じて生まれた他の人とのつながりから得られるもの
- 自己表現的価値:商品・サービスで自己表現ができたり、気分が良くなったりするもの
顧客は、商品・サービスが自分にもたらすと期待できる「価値」と、それを得るのに必要な対価となる「費用」(お金や時間などのコスト」のバランスを評価し、競合商品・サービスの「価値」の比較などを経て、買うか買わないかの判断に至る。
価値を得るための費用も時間も、それぞれの顧客が主観的に捉えるものである以上、価値を感じるターゲット顧客層と一対の関係と捉えて定義することが大切である。そして「誰に?」の顧客理解と「何を?」の顧客価値の整合した定義を、「どのように?」の4P施策に落とし込んで実装する必要がある。
顧客体験の接点・施策という広義の意味でのマーケティングに関わる人は、その全員が自分の専門領域に加えて「誰に?」「何を?」「どのように?」の施策の幅広い入り口〜概要部分までを学び、扱いこなせるようになることが大切である。
何らかの施策のメンバーや専門家で、安定して成果を出せる人は、このOSを備えている可能性が高い。逆に成果に大きなばらつきがある人は、そのOS部分は上司や依頼主など周囲が補っている可能性が高い。施策の専門性は、OSと組み合わさってこそ安定して成果が出るので、それを人選や教育で担保することが大切である。