データ分析ができる環境構築
小売業において重要なのは、正確な情報をタイムリーに入手し、迅速に最適な打ち手を講じることだ。しかし従来の「グッデイ」は、定型帳票以外のデータを入手するにはシステム部への依頼が必要で、手元に届くまで3〜4週間かかっていた。依頼する側も社内にどのようなデータが存在しているのかを正確に把握しておらず、システム部の作業内容も見えない。データを入手できたとしても、10万アイテム以上ある商品に店舗数や時系列データを掛け合わせると膨大な量で、分析は容易ではなかった。データを活用しようと前向きになればなるほど加工に時間を取られ、本来のバイヤー業務が疎かになるというジレンマに陥っていた。
そんな中、最大の転機が訪れた。2015年、徐々にクラウドシフトを進めていたシステム部のメンバーから「AWSのRedShiftにPOSデータをアップロードしたので使ってみて下さい」と声が上がった。クラウドデータウェアハウスとBIツールを活用し、これまで容易にはできなかった自社データの分析・可視化が簡単にできる環境が生まれた。そこで高度なデータ分析とビジュアライゼーションが可能な「Tableau」というBIツールの活用を開始した。
グッデイの人材育成
自分たちでデータ分析をするメリットがわかり始めると、社内の人材育成に着手。20代後半から30代前半の社員を各部署から1名ずつ選出し、計10名ほどで「グッデイデータアカデミー」という勉強会を立ち上げた。まずは、データベース操作のためのSQL言語、データ分析のためのRやPython、Tableauの使い方、Google Apps Script(GAS)など、社員が交代で講師となり教え合う。これに加え、小売業務への理解を深めるため、マーケティング、財務会計、マーチャンダイジングの基礎知識も学んでいった。
グッデイデータアカデミーによって、各部署に1名はデータ分析について幅広い知識を持つメンバーが配置される体制が整った。データ分析専門部署を立ち上げるのではなく、各部門にデータリテラシーを持つ人材を戦略的に育成・配置することで、組織全体にデータ活用の土壌を築く方針を選択した。この分散型アプローチが、その後の様々な改革において強力な原動力として機能することになった。
グッデイの経験上、最初は初級レベルの知識で十分。仲間同士楽しく学ぶ環境が整えば、いつの間にか実務で活用できるスキルが身についているケースが多い。重要なのは継続的な学習機会の提供と、小さな成功体験の積み重ねだ。
グッデイの人材育成において特筆すべきは、データリテラシー向上が単なる技術スキル取得にとどまらず、組織全体のカルチャーや業務アプローチを根本から変革した点である。TableauをBIツールとしてだけでなく、コミュニケーションツールとして捉えた。誰にとっても理解しやすく可視化されたデータを中心に議論できるようになると、経験則や先入観ではなく、データに裏付けられた精度の高い施策を打ち出せるようになった。
グッデイデータアカデミーは、現在では組織化され、毎年約10名が受講。これまでに述べ80人が受講している。気軽にデータについて質問できる環境が整い、データを基にした議論やコミュニケーションが、グッデイのカルチャーになっている。Excelを使ったルーティンワークから解放され、より高度な分析や戦略立案に時間を使えるようになった社員も少なくない。
グッデイデータアカデミーの肝は、教員免許を持つ小川由梨氏を中心に開発した教育プログラムだ。小川氏らが編み出したのが、数学アレルギーにも配慮したカリキュラムだ。できるだけ数式を使わず、専門用語も身近な例を引き合いに説明するようにした。さらに統計知識のばらつきに対応し、誰もが理解できるカリキュラムを心がけた。
グッデイデータアカデミーのもう1つの特徴は、あくまでも実践重視であることだ。教科書的な例題ではなく、グッデイの店舗データを使って具体的に示していく。データは定期的に最新のものにアップデートし、受講者は自分たちのビジネスの実態に即した形で学ぶことができる。
但し、研修を受けるだけではほとんど意味がない。グッデイデータアカデミーの重要なコンセプトが「知行合一」だ。単なる知識習得を目的とするのではなく、学んだことを実際の業務にどう活かせるかを重視している。「知行合一」を実現するには、「とにかく自分で考える、調べてみる、試してみる」という受講者自身の主体的な姿勢が不可欠である。研修を受講しただけでは終わらせない仕組みとして、研修の最後には「成果報告会」を実施し、研修で得た知識とスキルを使って、自らの業務課題をどのように解決しているかを発表してもらっている。