なぜ九州のホームセンターが国内有数のDX企業になれたか

発刊
2022年2月16日
ページ数
200ページ
読了目安
216分
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推薦者

シンプルなDXの進め方
メールもホームページもなく、全くIT化が進んでいなかった九州のホームセンター「グッデイ」がどのようにして、DXを実現したのか。
DWHやBIツールをうまく利用して、データを分析できる環境づくりを進めるための具体的な実例が紹介されています。まずはどのようにDXを進めれば良いのかが理解できます。

変化を嫌う組織文化

2008年当時、ホームセンター「グッデイ」では、連絡手段は紙と固定電話、FAXに限られていた。毎月の店長会議を開催するたびに、1万枚(100枚×100名分)の資料を印刷し、エリアマネージャーが半日かけて紙ファイルに綴じる作業を大会議室で行っていた。資料の差し替えが発生すると、すべてやり直し。

集客・販売促進施策は、新聞の折り込みチラシに限られていた。会社の公式ウェブサイトさえ存在していなかった。なぜ公式ウェブサイトがないのか聞いてみると、「うちのお客さまは誰もウェブを見ませんから」との答えだった。

商品の在庫は業務システムで調べることができたが、使い勝手も悪かった。自社で構築した業務システムは、古いプログラミング言語で構築されていたため、ウェブからアクセスすることはできず、各店舗のバックヤードに1台だけ置かれた店舗用のPCで確認するしかなかった。客の入りが多くなると自然に在庫の問い合わせも増える。繁忙期には、お客さまから問い合わせがあった商品の在庫を調べるため、PCの前にはスタッフの行列ができたが、システムそのものも動作が重かった。

 

当時のグッデイの根深い課題は次の3つだった。

①店舗スタッフの多くが「仕事=作業」と捉え、ルーチンワークを間違いなくこなしさえすればいいと考えていたこと

小売業は基本的にルーチンワークが多いが、世の中の変化に徐々についていけなくなっていた。変化に対応するのではなく、ずっと同じことをきっちりやり続けることが価値だという考えが浸透しきっていた。

 

②失敗を恐れて何もしないこと

新たな施策を提案しても「昔似たようなことをやってみたけどダメでした」といった答えが返ってくる。新しいことはなぜか最初からうまくいかない前提で話が進み、却下されてしまう。たまに改善案が出たかと思えば現場の作業に関するものばかりで、顧客視点も経営視点も欠けていた。

 

③独りよがりの発想がまかり通っていること

当時のグッデイは「自分の売場は自分でつくる」をスローガンに、店舗ごとに自由な品揃えや売場づくりを推奨していた。しかし、この言葉だけが独り歩きし、自分が扱いたい商品、自分にとって理想の売場づくりが優先されるようになり、現場の社員の思いつきで店舗が運営されているような状態だった。

 

既存の仕組みに手を入れるには、「このままでいい」と思っている多数派の社員に抜本的な変化を求めることになる。本当に変えなければならないのは、変化を嫌うグッデイのカルチャーだった。

当時グッデイにはアルバイトを含め約1500人の社員が働いていた。その全員に経営の意思を伝え、行動変容を起こさせるのは途方もなく難しいことだった。

 

データ分析できる環境構築が鍵

ITは最先端の技術だし、日進月歩で進化している。変化を実感してもらうにはわかりやすいテーマだ。低迷するグッデイを好転させる起爆剤は、IT活用にあるのではないかと考えた。しかし、ただやみくもにITに取り組んでもうまくいかないだろうことは明らかだった。

社内のシステム部もITベンダーも、ITでグッデイの何を解決するかではなく、「一体いくら出せるのか」に意識が向いてしまう。さらに、現場のオペレーションが既存のシステムに則って回っていたため、ビジネスプロセスを大きく変えるようなシステムの導入は難しかった。

小売業というのは、接客や店舗運営にやりがいを感じて入社する社員がほとんどで、システムが好き、ましてやシステムに詳しい社員は非常に少ないのが実情だ。グッデイも「一人情シス」に近い状態で、システムは誰も足を踏み入れられない「聖域」となっていた。

状況が大きく変わったきっかけは、中途採用で新しいもの好きな新システム部長を迎え、少しずつクラウドを使い始めたことだった。手始めは「AWS」上に「Redshift」というサービスを使ったDWH(データウェアハウス)を構築したことだった。クラウドによって、システム部だけが抱え込んでいたオンプレミスの不自由さや煩雑さが解消され、システム部は本当にやるべきITを使った戦略的な仕事に注力できるようになった。

 

小売業に限らず、経営において重要なのは、正しい情報をタイムリーに入手し、すぐさま最適な打ち手を講じることだ。ところが以前は、定型帳票以外のデータを入手するにはシステム部への依頼が必要で、手元に届くまで3〜4週間かかっていた。

データを様々な視点から分析するためには、例えば売上と天候の関係性といったような複数のデータを組み合わせて分析する必要がある。しかし、それぞれのデータが大きすぎて、Excelを使って分析することは事実上不可能だった。

 

そこでシステム部が考えたのは、既存のシステムは変えずに、中に蓄積されたデータを取り出してDWHに取り込み、そのデータをBIツールで分析することだった。専門知識がなくてもデータ分析やプロ並みのデータビジュアライズができるBIツール「Tableau」を活用し始めた。