ニッポン美食立国論 時代はガストロノミーツーリズム

発刊
2023年5月26日
ページ数
272ページ
読了目安
336分
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「食」で日本の観光を発展させるためのポイント
美食を求めて世界中を旅する「フーディー」たちを取り込み、日本の観光を発展させることを提言する一冊。現在、世界中から注目される日本のレストラン、食文化について解説し、美食を核としたガストロノミーツーリズムの事例をもとに、美食立国の方向性を説いています。

交通も不便な地方のレストランに世界中から人がやってくるという、フーディーたちの実態が紹介されており、今後の新たな観光のあり方についての視点がよくわかります。

美食で日本を活性化させる

ここ数年、美味しいものを求めて世界中を旅する人のことを「フーディー」と呼ぶ。彼らはネットやSNSを駆使して世界中の美味しいレストランを探し、そこに訪れるためのルートを開拓し、仲間を募って出かける。彼らにとっては「美味しい料理に出合う」ことが何よりも重要で、そのために同じような趣味嗜好を持つコミュニティの中で情報交換をする。コミュニティはほとんどの場合クローズドで、存在すら知られていない場合も多々ある。

 

世界の飲食関係者にとっては、ミシュラン以上に信頼性を得ていると言われるものに「世界のベストレストラン50」がある。この上位に入ったレストランには予約が殺到し、メディアにも多く登場するだけに、いまや世界のトップレストランは、ミシュランガイド以上にここで上位に入ることを念頭に置いている。このランキングに世界のトップフーディーたちが大きく関わり、重要な役割を担っている。

 

そして、いま世界中のフーディーたちは日本の美食に熱い視線を注いでいる。「世界のベストレストラン50」には、日本のレストランも上位にいくつも入っている。さらに、日本は美味しい食があるだけでなく、地方に行けば美しい自然や絶景があり、古い文化が残り、神社仏閣がある。人々は親切で犯罪も少ない。都会でも世界最高レベルの衛生と安全を誇る。

日本のシェフは世界から、日本文化を代表するアーティストとして考えられている。世界のフーディーたちが、寿司や天ぷら、ステーキだけでなく、焼き鳥やラーメンに至るまで、日本人シェフの作った料理を食べたいと日本に押し寄せてくる。そして若いシェフたちも、お客様の目の前で料理を作るだけではなく、レストランやオーベルジュをプロデュースしたり、商品を企画したりなど、大局的な観点から「食」を産業として研究するようになっている。

 

こうした流れを受けて、「ガストロノミーツーリズムで地方を活性化したい」と考える地方自治体が続々と出てきて、視察も活発に動き出している。2023年には観光庁が、インバウンド富裕層の積極的な誘致に向け、集中的な支援等を行うモデル観光地11地域を選定した。

食が充実している地域に素晴らしい宿泊設備や交通インフラがあれば、充実したガストロノミーツーリズムが生まれる。そして、ガストロノミーツーリズムが発展していけば、さらなる富裕層が訪れるラグジュアリーツーリズムとなり得る。

 

「面のツーリズム」へ

フーディーたちを満足させるようなガストロノミーツーリズムを具体的にどうやって発展させていけばいいのか。わかりやすい例として、軽井沢町の試みがある。日本の中で一番世界に名前の知られているリゾート「KARUIZAWA」ことが、ガストロノミーツーリズムの先鞭になり得る。

軽井沢をもっと発展させる考え方の1つに「大軽井沢経済圏構想」がある。これは軽井沢単体だけでは観光客を集めるのに限界があるが、周辺の豊かな観光資源を持つ地方自治体と一緒に「大軽井沢」という形で眺めれば、観光客へ多くの魅力を発信できるというものである。周囲の東御市や上田市、小諸市、佐久市、立科町などには素晴らしい日本ワインを作っているワイナリーがいくつもある。また、周囲ではウイスキーの開発も始まっている。車で2時間以内で考えると、草津、万座、鹿沢、菅平など本格的なスキー場がいくつもある。

 

軽井沢という地域で一番有名なブランドでまず集客する。そこをハブにして魅力的な観光圏を作ることが一番わかりやすい地方創生の手順である。軽井沢に弱点があるとしたら、宿泊施設である。ガストロノミーツーリズム、ラグジュアリーツーリズムには、「いい食」「いい宿」「いい観光」が必要である。軽井沢には「いい宿」があまりないところが問題である。世界の富裕層旅行のトレンドでは1泊に100万円払ってでも満足できるホテルを選ぶからである。

 

美食立国のためのポイント

「面のツーリズム」を考えれば、日本を美食で立国させる手法は多様にある。そのためのポイントは以下のような流れで行うことである。

  • 点ではなく面でツーリズムを捉える
  • 食・宿・観光のすべてをうまく配置する
  • フーディーに発見されるような場所を作ることを考える
  • 食にこだわる「ヘンタイ」なシェフを探し当て、美食の聖地を発展させる
  • ガストロノミーツーリズムからラグジュアリーツーリズムへと発展させる
  • 食の充実だけでなく、高級宿泊施設、オプショナルツアーの提案、SDGsやフードロスへの取り組みの可視化など、富裕層がきちんと対価を払うシステムを作り上げる