他者を観察し、優れた部分を盗む
「天賦の才能」を持たない人であっても、才能を作り上げる環境を作り出し、才能を伸ばすことができる。才能はどんな分野であれ、単純な経験でも、生まれつきの能力でも、記憶力や知能でもなく、特定の「ツール」によって生み出される。
自分にインスピレーションを与えてくれる外科医、指導者、ヒーローを見つけて、彼らをよく観察すること。受動的に観察するのではなく、能動的に、その卓越した技術に没頭すること。大事なのは卓越した技術のもととなる資質を発見し、どう自分に取り入れるかを見出すことにある。
盗んだ技術が自然にできてしまうほど練習した後は、創造力を自由に発揮して、その技術を自分にとってより有用なものに変えていけばいい。アイデアは、そのまま正確にコピーするだけでなく、概念的にコピーすることができる。アイデアを盗み、自分自身のコンセプトを盗み、これまで考えられなかった領域に応用することができる。
目標を書き出し、目標に到達するまでのプロセスに没頭する
進歩するためには、適切な目標設定が不可欠である。才能のある外科医は目標を詳細に設定し、それを達成するためのプランが明確である。さらに優秀な外科医は具体的な目標、プロセス、目標を達成するまでのタイムラインを考えつつ、多くの場合、さらにその次の目標まで併せ持っている。
具体的には、まず短期と長期の目標を立てる。そして、その目標を達成するためのプランを作り出す。最も良い「到達目標」とは、結果に対して立てられたもので、結果までの達成度が数値化できるものである。この到達目標を達成するための過程として「プロセス目標」が必要である。ほとんどの外科医は大まかな目標を持っている。しかし、最も優れた外科医には常に目標があり、その目標を達成するためのプロセスがある。
ハードスキルとソフトスキルの両方を培う
すべてのスキルはハードスキルとソフトスキルのどちらかに分けられる。ハードスキルは、ゴルフのスイング、ギターのソロ演奏、スライダーの投げ方など、ある作業を正確に繰り返す能力から生まれる。一方、ソフトスキルは、サッカー選手がディフェンスの弱点を察知したり、ビジネスパーソンが交渉の場で空気を読んだりするように、今得たばかりの情報をもとに即座に意思決定することを意味する。ソフトスキルは「読む」「認識する」「反応する」を伴う。ハードスキルとソフトスキルは大きく異なり、その培い方も使う脳の部位も異なる。どのような分野であれ、才能を開花させるにはハードスキルとソフトスキルの両方が必要である。
ハードスキルは、正確に繰り返すことで培われる。ゆっくりと完璧に動き、エラーを見つけて修正する。これは退屈なことだが、必ず後々時間を節約することになる。手術の基本も、細部の繰り返しに気の遠くなるような注意を払うべきである。
ソフトスキルを身につけるには、好奇心を持って積極的に行動し、新しいことにチャレンジすること。優秀な外科医だけが持っているソフトスキルの1つは、プレッシャーの中で優れた意思決定を行えることがある。手術の準備を優先し、複雑な課題を想定し、将来の問題を予測して回避する。基本的な手術は退屈なほど簡単にやっているように見せるし、極限状態に陥っても慌てずに対応する。
手術では、すべての経験、特にミスやニアミスを分析し、成長のために最大限に活用する必要がある。理論上起こりうるあらゆるシナリオやサプライズを想定して、そのそれぞれに最適な解決策を事前に導き出しておく。
スイートスポットを見つけ、背伸びをして繰り返す
才能を開花させるためには練習こそが勝負で、自分の能力が限界まで引き出されるところ「スイートスポット」を模索することである。「スイートスポット」は、自分のパフォーマンスが快適に行えるゾーンをわずかに超えたところを指す。そのプロセスでは基本的に「背伸び」が必要である。技術習得までのスピードは、スイートスポットで練習した時間に比例する。
ただ単に経験があることと、手術の腕の良さはイコールではない。間違った手術をし、それを繰り返している外科医は、単に間違った手術をたくさんしているだけで、患者にとっては気の毒な外科医である。
練習の質は、努力の量と、目的とする技術にどれだけ特化した活動をしているかで決まる。練習の質は、費やした時間よりも圧倒的に重要である。「背伸び」、フィードバック、修正を継続しながら、集中して練習することの方が、時間の長さよりも重要である。
グリットを養う
グリット(やり抜く力)は、いかなる挑戦においても達成するために、必要な究極のアイテムである。グリットとは、情熱、忍耐力、自制心が混ざり合ったもので、障害があっても前に進み続けさせてくれるものである。
目標を達成する人とそうでない人の最大の違いは「期待度」だと言われている。成功する人は、すぐに成功するという期待は持っておらず、失敗を「やり直す理由」「より強い決意で目標に集中するための戒め」と考えている。