イノベーションのジレンマからの脱出

発刊
2023年3月9日
ページ数
312ページ
読了目安
521分
推薦ポイント 6P
Amazonで購入する

Amazonで購入する

成熟企業が新しく事業を立ち上げるための参考事例
ふくおかフィナンシャルグループが新規事業として立ち上げた、デジタルバンク「みんなの銀行」のこれまでの挑戦が紹介されている一冊。

FinTechの台頭や低金利、少子高齢化といった厳しい環境の中で、旧来の銀行がどのようにイノベーションのジレンマを打ち破り、新たな事業を立ち上げていったのか。
2014年からマネーアプリ開発に着手し、銀行業の中では、素早い取り組みを進められた要因には何があったのかが紹介されています。

銀行業のイノベーションのジレンマ

今、銀行は大きな変化のうねりの中にいる。例えば2016年9月には、日本の地域金融機関は106行あったが、現在は統合が進み、2022年3月時点で100行に減少している。また銀行のコア業務である融資と手数料のみでどれだけ稼げているかを示す顧客向けサービス業務利益が赤字の銀行は、2017年度の決算において、地方銀行の半分を占める54行にも上り、連続赤字となっている銀行も存在する。

この原因はいくつもあるが、少なくとも次の4つは間違いない。

  1. 人口減少・少子高齢化
  2. 低金利環境の長期化
  3. デジタルテクノロジーの進展による金融のアンバンドリング(ばらばらにされること)
  4. 異業種の金融参入

 

テクノロジーの変化は、様々なルールチェンジやパラダイムシフトを促進した。このような変革から、銀行業だけが無縁であるはずがない。その1つの兆候はFinTechの登場である。FinTechであるベンチャー企業やスタートアップ企業は、銀行機能や商品の一部に特化して使い勝手の良さを追求した新しい金融サービスを提供した。そのようなFinTech企業に銀行は、従来提供してきたワンストップ金融サービスから、決済や融資、運用などのそれぞれに特化したサービスにアンバンドリングされて、自分たちの市場が侵食されるかもしれないと感じた。

 

10年後の銀行のあるべき姿を見据えた挑戦

2014年、イノベーションの模索を続けている成熟企業、ふくおかフィナンシャルグループ(FFG)の取締役社長は、経営企画部に所属する中堅銀行員であった永吉健一にミッションを与えた。

「10年後の銀行のあるべき姿を見据えて、これまでの延長線上にない、非連続の成長戦略を描いてほしい」

 

そうして、今から10年前に「デジタルと親和性の高い未来の銀行顧客である若い人たちにはどのような需要が生まれているだろう」と考え始め、辿り着いた結論がこうだった。

「銀行がなくても他のサービスで代用できれば銀行は要らないという人たちが増えてくる」

 

情報・金融テクノロジーは劇的に進化し、様々な非金融事業者のプレーヤーの登場により、銀行が銀行でなくなる日がやってくる。その時、既存のインターネットバンキングに求められる役割はどう変化しているのか。まだDXやFinTechといった言葉が普及していなかった当時では、これらの視点に基づいて戦略的な打ち手を明確に掲げている銀行はあまりなかった。

そこで、これらの視点で未来の銀行顧客を考えた時に、テクノロジーやデジタルによって進化したサービスを使っている人たちは誰かを考える。すると、現在Z世代あるいはデジタルネイティブ世代と呼ばれるデジタルと親和性が高い若い人たちが浮かび上がってきた。

銀行の必要性を感じていないZ世代に刺さるサービスは何かを考え、辿り着いたのは、スマートフォンの良さを最大限に活かしたサービスである。デジタルをベースにしたサービスであれば、そもそもエリアの概念はないので、市場は全国に広がる。ただ同時に、スマートフォンのユーザーにしかサービスを提供できないという制約が生じる。Z世代に刺さるサービスをデジタルでつくるには、ある程度ニッチな領域にフォーカスせざるを得ない。こうした考えの下で誕生するのがマネーアプリ「Wallet+」であり、それを提供する「iBankマーケティング」である。

 

iBankマーケティングは、銀行内の組織決定プロセスは複雑で時間がかかるため、新規事業の立ち上げに求められる敏捷性を獲得できないと判断した。そこで、新会社を社内ベンチャー企業であると位置付け、自らのポケットマネーで起業した。但し、実際の開発費には10億円単位の資金を動かす必要があったので、これは銀行からの出資を待つ必要があった。iBankマーケティングは、立ち上げから7年後には、従業員100人超の企業に成長し、マネーアプリ「Wallet+」は、200万ダウンロードの実績を打ち立てている。

 

なぜ銀行はFinTechに負けるのか

様々な金融サービスをワンストップで提供できる強みを持った銀行が、なぜFinTechに負けるのか。それは、1つ1つのサービスが複雑でわかりにくいことや、多数のサービスが似ていてわかりにくいこと、そして、どこの銀行のサービスも横並びでコモディティ化していることがある。

 

ならば「1つ1つのサービスをFinTechのように使いやすくユニークなUI/UXに作り直し、銀行の強みであるワンストップで揃えたプラットフォームを作ったら便利なのではないか」と考えた。

つまり、FinTechが銀行の機能のアンバンドリングであったのに対し、iBankマーケティングが目指したのは、FinTechの優れた顧客体験をもう一度束ね直すリバンドリングであった。

そのため、「Wallet+」は当初は最小限のサービスを提供していたが、その後お客様の声を反映させて現在では幅広いサービスを提供している。