イスラエル 人類史上最もやっかいな問題

発刊
2023年2月25日
ページ数
385ページ
読了目安
592分
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イスラエルという国を理解するための入門書
ユダヤ人とイスラエルの歴史的な問題を解説している一冊。ユダヤ人とイスラエル建国の歴史を解説しながら、現在でも解決に至っていないパレスチナ問題について、その前提となる知識や論点が紹介されています。

ユダヤ人とパレスチナ人の紛争がなぜ終わらないのか。イスラエルという国の根本的な問題を理解するのに役立ちます。

ユダヤ人とイスラエル

ユダヤ人の想像の中にイスラエルという概念が初めて現れるのは、ヘブライ語聖書においてである。創世記12章1節で、神はアブラハムにこう告げる。「あなたは生まれ故郷、父の家を離れて、わたしが示す地に行きなさい」と。この約束の土地がカナンであり、後にイスラエルとして知られるようになる。

約束の地の物語は根を下ろし、ユダヤ人とイスラエルとのつながりが生まれた。数千年にわたる戦争、征服、追放、流浪の経験を経てもなお、ユダヤ人はこの約束に対する信仰を失わなかった。

 

紀元前1000年頃、聖書の登場人物ダビデはユダヤ王国を建国し、エルサレムに首都を置き、その息子ソロモンは、エルサレムの中心部に最初のユダヤ神殿を建てた。ダビデの時代に続く数世紀の間、ユダヤ人の王国は現在のイスラエルとヨルダン川西岸にあたる地域で盛衰を繰り返した。紀元前63年に、ユダヤはローマ帝国の属国となり、やがて反乱の末、多くのユダヤ人はイスラエルを追われ、ヨーロッパへと移住した。彼らは行く先々でコミュニティを形成したが、差別、強制改宗、暴力、最終的には追放の憂き目にあうことが多かった。

19世紀末には、多くのユダヤ人にとって、次のことが明らかになってきた。ヨーロッパ社会への統合という夢は実現しそうにない。ヨーロッパ大陸のいたるところで、キリスト教会を基盤とする昔ながらのユダヤ人嫌悪が、さらに醜い偏見へと変質しつつあった。ヨーロッパのユダヤ人が真に受け入れられることは決してないし、従って真に安全であることもないという確信から、彼らはこう結論した。ナショナリズムが高揚する時代にヨーロッパのユダヤ人の迫害問題を解決する唯一の方法は、ユダヤ人のナショナリズムであると。

1880年代、ヨーロッパで暮らす多くのユダヤ人が、迫害を逃れてパレスチナへ移住することを真剣に考えるようになる。彼らはイスラエルの地におけるユダヤ人の民族自決を求める運動を始めた。この運動はやがて、シオニズムとして知られるようになる。シオニズムは、イスラエルにユダヤ人の祖国を再建することを目指す思想であり、運動である。

20世紀初頭までに、理想に燃えた社会主義的傾向の何万人ものユダヤ人が、ユダヤ人強制集住地域からパレスチナへ移住した。彼らは集団主義的な農業キブツ運動を始め、初のユダヤ人自衛組織を立ち上げ、新しい制度を構築した。

 

ヨーロッパのユダヤ人が経験した歴史や不幸は、19世紀にユダヤ人移民が到着し始めた頃のパレスチナの住民には何の関係もない。パレスチナには、現在パレスチナ人と呼ぶ人々が既に住んでいた。シオニストの移民が押し寄せ始める直前の1880年、パレスチナ全体の人口は60万人足らずで、95%がアラブ人だった。

新たにパレスチナにやってきた人々に祖国を奪われたことは、忘れ難い悲劇である。それは今日までパレスチナ人を、そしてイスラエル人を苦しめている。

 

地図は領土ではない

イスラエル人もパレスチナ人も多大な労力を費やして工夫をして、相手方の領有権を否定することで自らの領有権の主張を強化しようとしてきた。認識をめぐるこの戦争の主な戦場は歴史、地理、地図作製、考古学だ。特に地図は、しばしば双方でプロパガンダのテコ入れと視点形成の武器とされた。イスラエルやパレスチナ自治政府による公式の領土地図は、大概グリーン・ラインも、相手方がその土地に実在する事実も示さず、代わりに不可分の国という夢想を描いている。全部イスラエル、あるいは全部パレスチナなのだ。

これは役に立たないどころか有害であり、危険な代物になってしまっている。パレスチナ人とイスラエル人の子供たちは、何世代にもわたって自分たちだけが国土の正当な所有者だと教える地図を見て育ってきた。そのような深く根付いた意識と思い込みが現実と食い違う時は要注意だ。それこそが、新たな世代の紛争と嫌悪を生み出す大きな要素だからだ。争いの的であるこの地域に関しては、地図は領土ではない。

 

煎じ詰めれば、ダビデ王が本当にシルワンに王宮を建てたのか、あるいはパレスチナ人がペリシテ人の子孫なのかは、あまり重要ではない。事実は、歴史や神話や信仰や実体験によって築かれた強い絆が、ユダヤ人やパレスチナ人と、両者が領有権を主張する土地の間にあるということだ。それを否定する証拠を探すのは、迷惑だし骨折り損である。自分はいい気分になるかもしれないが、相手が感じていることを感じなくさせることはできない。それならば、双方が感じている深いつながりを認め合うことこそ、紛争の解決法を探る第一歩として有効かもしれない。