シンクロニシティ 科学と非科学の間に

発刊
2023年1月26日
ページ数
400ページ
読了目安
571分
推薦ポイント 2P
Amazonで購入する

Amazonで購入する

推薦者

わかりやすい物理学の歴史
因果律を前提とした「特殊相対性理論」「一般相対性理論」では説明しきれない、非因果性を持つ「量子力学」。それぞれの理論を統一し、自然の摂理を解き明かそうとしてきた科学者たちの歴史をわかりやすく紹介している一冊。
これまでの物理学の研究過程から、現在提唱されている最先端の仮説まで、宇宙の仕組みや自然の原理について科学知識がなくても理解できます。

因果律は絶対なのか

アインシュタインは、1905年発表の「特殊相対性理論」において、一般空間で因果律(すべての事象は、必ずある原因によって起こり、原因なしには何事も起こらないという原理)の伝わる速さは光速が上限であると明示した。つまり、ある原因による結果は、原因からの作用が光速で伝達こそすれ、それより早く発現することはないとした。

物体やエネルギーに関わる作用は一般に、真空を走る光よりも速く伝播することはない。どれほどミクロな素粒子であっても質量のあるものはすべて、光速より速く移動することは不可能だ。事実、物体の移動や情報伝達の速さに上限があることは、数々の実験によって裏打ちされている。

 

では、なぜ光速という特定の値なのか。特殊相対性理論は真空中の光速が不変かつ有限であることを前提にしているが、その理由については詳らかにしていない。

アインシュタインの特殊相対性理論は、今日では聖典のように位置づけられているが、将来光速の壁が瓦解する日が来るかもしれない。現に、特殊相対性理論の10年後に、同じアインシュタインによって発表された一般相対性理論には、その余地が残されている。物体やエネルギーによってその周りの時空が大きく湾曲すると、時空に抜け道のような構造が現れ、遠く離れた2点間において超光速での移動が可能になるかもしれないのだ。この考えは後に「ワームホール」と命名された。但し、現在のところワームホールの存在は理論上の話に過ぎず、ワームホールによって因果律が破られるのかわかっていない。

 

非因果性を持つ量子力学

19世紀末の科学は、厳格な因果律に基づく決定論へとひた走っていた。即ち、自然界の相互作用はいずれも因果律に従い、特定の速さで伝わると考えられていた。しかし、20世紀を迎えると、原子内部の不可思議な世界が量子力学によって明らかになる。量子力学によれば、素粒子同士は媒質(力や波動などの物理的作用を他へ伝える仲介物となるもの)を介することなく遠隔地において相関を示すことができる。そのような「もつれ」の概念が生まれ、実験に力が注がれてきた。

 

量子もつれは、相互作用ではなく、粒子間の相関である。そのため、因果律に厳格に則った伝播より速く結果を伝えることができる。つまりそれは、自然界に2種類の「伝達ルート」があることを意味する。光速を最高速度とする伝達経路と、人間の観察と同時に相関を示す量子相関という経路だ。

これまで、相対性理論も量子力学も司るような統一的な理論によって、自然界の摂理を一義的に記述しようと多くの科学者たちが歳月をかけ知恵を出し合ってきた。

 

因果律を超えた理論

もし、すべての科学的現象が因果律の上に成り立つのであれば、原因があって結果が生まれる、という関係を満たさない現象は漏れなく否定される。しかし、量子もつれなどの量子現象は、因果律の作用とは目に見えて異なる特徴を示す。再現性と予測の正確性という観点から、科学的現象として定義される一方で、明らかに非因果性を伴う。

 

アインシュタインにとって皮肉なことに、特殊相対性理論の中で、光速を相互作用の伝わる絶対的な上限速度としたにもかかわらず、続いて発表した一般相対性理論によって、その前提に大きな抜け穴がもたらされる結果となった。主因は、歪曲する時空という概念である。理論的には可能とされる時空間のワープに加え、量子もつれや量子コヒーレンスなどの非局所的な量子現象も勘案すれば、未来の宇宙文明では超光速移動が実現していてもおかしくない。

 

高次元時空の主要な研究は「ブレーンワールド仮説」に基づいている。物質の最小単位を点粒子ではなく振動する弦とし、開いた弦や閉じた弦、表面積を単位とするエネルギーといった概念のもと、高次元多様体(時空を一般化した対象)における存在と相互作用を想定する。一般空間の三次元と時間の一次元からなる四次元より高次の余剰次元は、ボールや結び目のように小さく丸まっているため、人間には観測できない。これに対して、余剰次元の内の1つの次元については、当該次元方向に移動できると謳ったのが「ブレーンワールド仮説」である。この考えを場の理論に応用すると、重力が他の3つの力(電磁気力、弱い力、強い力)に比べて非常に弱い点など、長年説明できなかった問題が解決される。「ブレーンワールド仮説」では、私たちの認識する世界は三次元空間の膜に限られるが、グラビトン(電磁気力を媒介する光子のように、重力を媒介するボソン)は「バルク」と呼ばれる余剰次元の時空にも伝播するため、重力は弱いと考える。

もしブレーンワールド仮説が正しければ、重力波のパルス調整により、バルクという近道を介した遠隔地への移動が可能となるため、遠い未来に、そのような技術を持つ高度な文明が誕生してもおかしくはない。

 

ワームホールといった一般相対性理論の表す時空の複雑な結びつきを考えれば、原因が結果に先立つとの概念が、量子系以外においても破れ得る可能性に目を向けなければならない。