「未来」とは何か 1秒先から宇宙の終わりまでを見通すビッグ・クエスチョン

発刊
2022年12月21日
ページ数
408ページ
読了目安
750分
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未来をどのように捉えればいいのか
人気の歴史学者が、未来、時間というものについて、物理学や哲学、生物学など様々な視点から解説し、人類が過去から未来というものをどのように捉えてきたのか、これからの未来はどのようになっていくのかを考察している一冊。
俯瞰して未来というものを考えることができるようになります。

未来とは何か

未来を理解するには時間を理解しなければならないが、そもそも時間というものは存在するのだろうか。時間の問題には、哲学者から物理学者まで、あらゆる人が取り組んできた。現代の時間哲学者は2つの主要な方法論を区別しており、それらは未来を理解する上で互いに全く異なる意味合いを帯びている。

 

①「川」としての時間:A系列時間の未来

時間は川のように「流れる」と同時に「絶対的」でもあって、地図上の線のように持続している。そこから読み取れる特徴は次の3つ。

  1. 未来は絶え間なく変化する
  2. 未来はある決まった方向に伸びている
  3. 未来は隠されている

A系列時間の主な特徴は「未来円錐」と呼ばれるタイプの図にまとめることができる。どんな証拠から見ても過去は1つしかないので、過去は1本の直線となるが、未来はたくさんの可能性を含んだ円錐へと広がっていく。

 

②「地図」としての時間:B系列時間の未来

今日の世界で生きるほとんどの人には、A系列時間に基づく未来の捉え方が正しいように感じられる。しかし必ずしもそうというわけではない。時間哲学や伝統的な宗教では、川というよりも地図に近い第2のタイプの時間が知られている。

B系列時間には、過去と現在と未来は互いにあまり違いがなく、地図上の各領域に過ぎない。「いま」はこの瞬間に自分がたまたまいる場所、未来は自分の現在の位置から一方の側に外れた領域である。別の観測者は現在と過去と未来を違う風に捉える。

宇宙地図の座標は、すべての空間、遠い過去から未来まですべての時間にわたっている。あらゆる物体や出来事は「ブロック宇宙」と呼ばれた4次元的存在の中に溢れている。現在の瞬間は何ら特別ではない。このように時間を地図に例えると、変化は過去から未来への一方向にしか起こらないという感覚も怪しくなってくる。

 

私たちは複数の未来を実際に経験することは決してない。たった1つの未来にしか出合わず、未来がやって来た時にはすでに現在に変わっている。そうだとしたら、私たちが複数の未来の内のたった1つに出合う前に、それ以外の未来が存在しているというのは一体どういう意味なのか。B系列時間ではこうした問題は生じない。

しかし、B系列時間ではA系列時間のパラドックスを解消できるが、その一方で未来思考にとって2つの深遠な問題が浮かび上がる。

  1. 未来はすべてあらかじめ縫い合わされていて選択肢は存在しないことになる
  2. 変化にはっきりした方向性がなく、因果関係は成り立たない

 

A系列時間とB系列時間の問題について、現代の時間哲学者は次のような論を展開している。

ブロック宇宙は実在する。しかしブロック宇宙は、原理的におおかた予測可能である機械論的原因によって作られていると同時に、起こる瞬間には予測不可能である出来事、例えば量子的事象や、目的を持った存在の行う選択によっても作られている。ブロック宇宙を「見る」ことができるのは時間の流れの外に立っている存在だけだが、ブロック宇宙の少なくとも一部はその流れの中に埋め込まれた存在によって作られている。

現代科学によると、たとえブロック宇宙であっても、あらゆる事柄があらかじめ定められている訳ではなく、私たちに影響を及ぼすほとんどの変化は方向性を持っており、実際に原因の後に結果が生じる、とされている。つまり、私たちは未来に関する選択を実際にある程度行うことができ、ほとんどの場合、因果性の概念に頼って起こりそうな未来を予測することができるのだ。

 

過去から未来を予測する

生物は、自然選択によって柔軟で幅広い術を獲得し、それによって様々な環境における不確実な未来に対応できるようになった。そうした生存術の中で最も基本的なものの1つが「目的」を持つことだ。つまり、生物は、各々特定の基準系から未来に立ち向かう。生き延びて増殖し、さらに繁栄できるような未来を積極的かつ創造的に追い求める。

 

あらゆる生物の未来思考に当てはまる基本原理がいくつかある。

  1. 未来は証拠にしばられない
  2. 未来の証拠は過去にしか存在しない
  3. 未来思考が未来を方向づける
  4. トレンドハンティング(過去の潮流やトレンドを調べ、それに基づいて慎重に未来を予測する)

 

過去を未来の道標として用いる中で最も重要なのが「トレンドハンティング」である。これは全ての生物が実践していて、人間にとっても真っ先に頼る戦略だ。私たちは、自分が操れると考えるような潮流やトレンドを探すことが多い。

トレンドハンティングの方法は主に4つある。

  1. 相関を直接検出する
  2. ランダムディッピング(手当たり次第に取り出してみる)
  3. 共有された知識を活用する
  4. 原因を体系的に調べる

 

トレンドハンティングの根底をなす論理のことを、哲学者は「帰納論理」と呼ぶ。帰納論理では完璧な知識は得られない。しかしこの世界は数学ほどには整然としておらず、論理的でも予測可能でもないので、私たちは帰納法を使わざるを得ない。

 

私たちのあらゆる未来思考において最も重要なのは、起こるかもしれない複数の未来がたった1つの現在となる決定的瞬間である。私たちはその瞬間を予測して行動しなければならない。