フューチャー・プレゼンス 仮想現実の未来がとり戻す「つながり」と「親密さ」

発刊
2019年4月10日
ページ数
352ページ
読了目安
428分
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推薦者

VRの本質と将来性とは
ヴァーチャル・リアリティ技術は、単なる異なる世界を体験するためのものではない。人と人のつながりを生み出す土台として、VRが有効であるとし、その可能性について紹介している一冊。

VRの可能性

VRは単なる新しい形のメディアではない。これまでのメディアの壁を完全に取り払うものだ。人間はこれまで、遠くの風景を描いた絵を見て、あるいは本を読んでその場面を想像し、またスクリーンで映画を鑑賞して過ごしてきた。本や絵は想像上の世界を示し、味わわせてくれたが、実際に体験できるわけではなかった。しかし、VRがもたらす感覚的な没入感はレベルが違う。

世界有数の大企業の数々が、商品化の見込みが立つずっと前から、何十億ドルという資金をVRに投じている。それは、VRがあらゆる産業を大きく成長させる可能性を秘めているからだ。

別世界を体験する単なる装置ではない

VRは、人と人の関わり方を激しく破壊する。その要因となるのが、VRの持つ実体感(プレゼンス)だ。プレゼンスのあるVR体験では、使用者の五感がバーチャル体験を現実の体験として脳に伝え、そして脳は、現実の体験に対するのと同じ反応を返すよう、肉体に指示を送る。プレゼンスは仮想現実の土台そのものだ。VRでは、それこそがつながりの土台になる。

他者と出会い、人生が変わるような腹の底からの感覚を一緒に味わう体験こそが、VRが社会に及ぼす最も甚大な影響だ。VRには、誰かとの親密さという感覚をくすぐり、呼び覚まし、膨れ上がらせる力がある。

親密さを得るのに必要なものは、一緒に過ごす他の誰か、体験を振り返って思い出を深め、コミュニケーションを取って心を通わせる人間が必要だ。相手がいなければ成り立たない強烈な体験を、私たちは初めて、相手がいなくても味わえるようになった。VRには、シュミレーションを使って脳を騙し、何らかの気持ちを引き起こす力があるから、これからはプログラムや記録された何かに親しみを覚えるようになる可能性がある。

体験を共有することで親密さを生む

親密さの本質は、何らかの現象を共有することである。そう考えると、VRを使ってユーザーに親密さを感じてもらえるかは、ユーザーを巻き込んだ体験、つまりは決定的瞬間を構築する体験をつくりだせるか次第だと言える。そうした決定的瞬間の構築に向けて、業界はまだ探求や実験を繰り返している段階だ。

マーク・ザッカーバーグが2014年にオキュラス買収を決めたのは、VRを現実逃避を可能にする娯楽としてではなく、人と人をつなげるものと見なしていたからである。「これは全く新しいコミュニケーション・プラットフォームです。あなたが友人とオンライン上で共有できるのは大切な瞬間だけではありません。体験や冒険をまるごと共有できるのです」ザッカーバーグは買収の発表にあたってそう述べた。

2017年、フェイスブックは、これまでのデモをもとに、人々が実際に使える製品を発表した。「フェイスブック・スペース」として現在知られるこのアプリは、それまで人々が体験してきた数々のソーシャルVRプラットフォームとは全く異なるものだった。それは、知り合いと集まれる上質の空間だ。フェイスブックがVRを採り入れた意図は、人間関係を築くためではなく、既存の人間関係を深めるためだ。関係は体験を共有することによって築かれる。スペースは体験のパレットであり、どこよりも多くの瞬間を共有し、親交を深める場になる。