ジャーニーシフト デジタル社会を生き抜く前提条件

発刊
2022年12月15日
ページ数
200ページ
読了目安
318分
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これからの顧客提供価値を考える上で大切なこと
『アフターデジタル』によって、様々な国の先進的なサービスやUXの考え方を発信している著者が、これからの時代に顧客が価値を感じるものとは何かを解説している一冊。
社会の変化や技術の進化によって、顧客が望む価値は大きく変化していると説き、どのように顧客提供価値を設計すべきかという要諦が紹介されています。

これから求められるプロダクトやサービスをどのようにデザインすべきか、あるいは再設計すべきかを考えるためのヒントになります。

利便性と意味性の違いを見極める

価値を感じるUXやサービスには、次の2つのレイヤーがある。

 

①利便性

不便を便利にするという誰にでも分かりやすい課題を解決するもの。不便を便利にするというのは、マイナスをプラスにすることなので「改善の方向」が明白である。方向が決まっているので改善や改良をしやすいが、一方で指標が分かりやすいため、その指標をベースにした競争が激化する。生き残るプレーヤーの数は多くなく、巨大なプレーヤーが残りやすい。

 

②意味性

「自分らしさ」や「好き」など、人によって異なる基準や尺度を持つものが対象となる。評価基準は人の好みや価値観、思想などにより変わるし、面白い、センスがいい、かっこいいなど、数値化できない感覚的なもので評価されるため、共通の尺度がない。お酒や洋服のブランド、様々な漫画や映画が存在するように、多くのプレーヤーが生き残る。その多様なプレーヤーの中から自分にとって「特別」なものを選ぶことが、ユーザーにとっての価値になる。

 

この2つのレイヤーには、それぞれの環境に応じた相性がある。

インドネシアやかつての中国など、新興国がリープフロッグでイノベーションを起こすのは、主に利便性レイヤーである。インフラが未成熟で生活に必要な機能が十分に行き渡っていないため、社会的ペインが至る所に存在する。

一方で、欧米や日本のような成熟市場において求められるのは、主に意味性レイヤーである。インフラを含めた生活水準が十分に高く、分かりやすい社会的なペインの多くは既に何らかの形で解決されている。このような市場では、利便性レイヤーにおける伸びしろは大きくない。金銭的な豊かさは頭打ちとなっているため、生き方や価値観、趣味などに幸せの方向性が向かいやすくなる。その結果、コンテクストの豊かな「意味性」を持つモノやサービスが強く求められる。

 

UXづくりやサービス設計、価値創造においては、「利便性」と「意味性」の特性の違いを捉えることが重要である。

利便性は、いつでも、どこでも、安い、速いなどの「合理的な指標」で評価される。利便性においては、シェアリングのような共有の仕組みや、APIのような連携の仕組みは非常に有効に働くし、なるべくオープンに広く共有・連携されていると効率よくなる。

これに対して、意味性は真逆で、所有や優遇など特別感を抱く方向に進むことで価値をどんどん大きくしていく性質を持っている。限られた人しか分からない・選ばれない、またはお金で買いたくても買えないといった、優遇や特別感、唯一無二感が意味性につながる。

 

Web3は意味性を進化させる

NFTやメタバースなどのWeb3は、特に意味性を豊かにする文脈において、重要な技術である。Web3には大きく2つのポイントがある。

  1. 意味性から生まれる所有という共同幻想が、より強化された世界観が生まれる
  2. インセンティブ革命が社会共同資本をもたらし、人々の持続的な協力関係をつくる

これら2つのポイントは、極端に言えば「Web3の得意領域」にすぎず、別の方法で実装することも可能である。しかし、Web3への注目や様々な実験から新たな可能性のヒントが得られ、才能も技術も資金もそこに集まることで加速していくのは間違いない。

 

Web3によって「意味性の価値」が付与され、強化されることにより、UXづくりの選択肢にしていくことができる。唯一無二で証明可能なデジタルアセットを持つことで、様々な活動に参加できたり、場合によっては自分だけのコンテンツをつくったりと、「自分が好きなコミュニティーのメンバーに自分も選ばれている」「周りにない特権を持つことができている」という体験が提供される。自分がそのコミュニティーの活動に貢献すると、換金可能なトークンとして返ってくることもある。

 

行動支援の時代に必要なこと

利便性と意味性の2つのレイヤーに関わる潮流は、1つの大きな時代変化として合流している。それが「ジャーニーシフト=顧客提供価値の変化」である。社会の変化によって、ユーザーが価値を感じる対象が「行動支援」に変わっている。これまでのコンテンツを受け取ることが価値だった時代から、実際に自分がアクションできることが価値となっているのである。

つまり、顧客提供価値は「モノや情報の提供」「瞬間的な道具としての価値」から、ありたい成功状態を実現させ、行動を可能にさせる「行動支援」に変わっている。

 

「行動支援の時代」においては、あらゆる企業は製品販売型の「バリューチェーン」から体験提供型の「バリュージャーニー」へとシフトしていく必要がある。バリュージャーニーでは、製品はあくまで顧客接点の1つであり、このジャーニーの上に乗り続けてもらい、結果として顧客が成功を収めることがゴールになる。このため、顧客接点を通して顧客とどのような関係性を築いていけるかが焦点となる。

 

利便性は、社会ペインの発見やジョイントビジョンの定義により、なるべくオープンに価値提供していく必要がある。一方の意味性は、人々が熱狂し、貢献したいと思えるような価値観を持って、より自分らしさや特別さを際立つ体験づくりが必要になる。利便性と意味性はバランスが重要で、この2つの道具を両手に携えながらジャーニーをつくっていくべきである。