山奥ビジネス 一流の田舎を創造する

発刊
2022年10月15日
ページ数
208ページ
読了目安
219分
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地方を活性化させるビジネスのコンセプト
山奥に移住し、ビジネスを行っている7つの事例を紹介しながら、地方に持続可能な社会をつくるためのヒントを書いている一冊。今後、人口が減っていく中で、日本経済が向かうべき方向性と地方のあり方、地方経済を活性化させるために重要なコンセプトが紹介されています。

山奥で魅力的なビジネスを行うためのコンセプト

山奥ビジネスの事例に共通するキーコンセプトは次の3つである。

 

①ハイバリュー・ローインパクト

価値が高い財・サービスを生み出しながら、環境や土地の文化への負荷を低く抑えるということ。「ハイバリュー・ローインパクト」は元々、ブータン政府の観光政策であった。ブータンでは、観光客が自然環境や土地の文化や風習を守るように必ずツアーガイドが案内するシステムになっている。

つまり、「ハイバリュー・ローインパクト」とは、自然環境や土地の文化に配慮しながら、持続可能なビジネスを行うための指針となるコンセプトであり、SDGsにもつながる。

 

②SLOC(Small, Local, Open, Connected)シナリオ

ソーシャル・デザイン思想家であるエツィオ・マンズィーニが提唱する、社会変革を興すためのコンセプト。文字通り、スモールでローカルなプロジェクトが、他の地域の人々に対してもオープンな状況となり、深く関係していくことによって、他の地域にも展開していくこと。このコンセプトは、持続可能な社会にするための社会変革が起こる条件を指摘したものである。

 

③越境学習

自分が育った土地を離れ進学や就職をして、新しい技能を学び、新しい価値観を得ることである。山奥ビジネスの人々は越境学習を通じて新しい経験をし、今までなかった知見を得て、山奥でビジネスを発展させている。また越境学習とは、地方から都会に行くことだけではない。都会から地方に移住した場合にも、今までとは違った環境からの学びや気づきがあり、越境学習をすることができる。

 

山奥ビジネスの人々は越境学習を経て、その土地ならではの「ハイバリュー・ローインパクト」な財・サービスを生み出す。そしてインターネットを駆使すれば、たとえ山奥に住んでいても仕事と暮らしは成り立つ。その実現のためには、差別がなく変化をいとわない「オープンな地域社会」を新たに創造すべきである。

「SLOCシナリオ」の中で、一番大事なのはオープンであることである。オープンであるとは、外から来た人たちを受け入れ変化を起こすことだ。実際に都市に住む人々が、山奥や地方に魅力を感じて移住しなければ、地域を魅力的にする山奥ビジネスは始まらない。

 

地方を活性化させることが重要

都市化が地方にも及んでくると、どこの地方都市にも同じような全国チェーンの店舗が並ぶようになる。よく言われるように「コピペした町」が日本全国に広がっている。

こうした流れに対抗するのが大衆による「ハイバリュー・ローインパクト」な財・サービスの生産であり、SLOCシナリオによる地域活性化である。

 

「地方には魅力的な仕事がないから、都会に人が移動している」とよく言われる。しかし、地方の人口が減少しているのは、かつて地方に存在した地場産業が消え、地域経済が衰退しているからである。つまりビジネスさえあれば、どんな山奥であっても人々は集まり、学校や映画館もあって賑わいが存在する。

 

2008年に人口のピークを迎え、人口減少と少子高齢化が進んでいく日本では、今後は基幹産業を製造業から観光業へとシフトせざるを得ない。そして、これからの観光業においては「ハイバリュー・ローインパクト」なサービスを提供し、地域がSLOCであることを目指すべきである。その理由は次の3つ。

 

①輸出と同じ経済インパクト

訪日外国人観光客が日本で消費する金額は、輸出と同じ経済インパクトがある。コロナ禍前の2019年のインバウンド全体の旅行消費額は4兆8135億円。一方、2019年に日本の輸出品目1位の自動車は約12兆円、2位の半導体等電子部品は約4兆円。既にインバウンド観光業は、第2位の輸出品目と考えられる。

 

②買い物消費によるGDP押し上げ効果

訪日外国人観光客は日本滞在中に宿泊費や飲食費を使うだけでなく、化粧品や食料品、時計や貴金属などの買い物をすることで、日本のGDPを押し上げている。

 

③すべての産業への経済効果

宿泊業や飲食業は老若男女が働ける産業であり、地方での宿泊や飲食において地域の農産物を使えば、第一次産業への波及効果も大きい。インバウンド観光業は、第一次産業から第三次産業まですべてに波及効果があり、日本全国に広く「所得を分配」できる可能性がある。

 

日本は、スペインやイタリア、フランスのような観光大国を目指すことになるだろう。今後は、日本全国にインバウンドを「分散」させることが重要な課題になる。そのためには、日本全国のそれぞれの地域が様々な魅力ある滞在プログラムを提供し、インバウンドが快適に旅することができるように情報網や交通網を整備することが重要になってくる。