アイデアが生まれる、一歩手前のだいじな話

発刊
2015年4月14日
ページ数
224ページ
読了目安
241分
推薦ポイント 2P
Amazonで購入する

Amazonで購入する

クリエイティブはどのようにして生み出されるのか
Mr.ChildrenなどのCDジャケットや広告を手がけるアートディレクター森本千絵氏のクリエイティブ論。アイデアの生み出し方や、ものづくりに対しての考え方などが書かれている一冊。

人の心を伝える

アートディレクター、クリエイティブディレクターとして関わる仕事とはいえ、そのアウトプットの先はいつも違っており、どの仕事も同じ方法論でつくってはいない。ただ1つ共通しているのは、誰かの想いを受け取って形にして伝えていくということ。そして、表現する時にはいつも色や音楽が共にあるということ。その方が人の心に伝わる。

「広告をデザインする」という事は、人から発注され消費される商品に対して、クリエイターが自分なりの正解を出して応えていく事である。しかし、そういう中において最も大切にしている「本当のデザインの価値」とは、それを伝えたい人の想いをいかに汲み取り、その商品が持っている本質や普遍性を丁寧にすくい出し、その本質が見る人の心に伝わるように、いかに形にしていくかである。

広告とは「誰かと誰かをつなぐコミュニケーション」。だからどんな仕事においても、誰かと誰かの「間」に入り、誰かの想いやその人の素敵なところを翻訳して誰かに伝えるという事をやっていく。

 

迷ったら「希望のある方」を選ぶ

自分の力だけではどうにもできない、抗えない事が起こると、どんな出来事もそこに向かうためのきっかけに思え、すべてはご縁のような気がする。波に乗るか乗らないかと二者拓一できる場合には、必ず明るい方を選ぶ。人生はいろんな選択の連続だが、仕事においても同じ。デザインしていく中でも2つのデザインの方向性があれば「こっちの方が明るい」と感じる方を選ぶ。それは単に色が綺麗とか、見るからに楽しそうという事ではなく、どこかしら希望がある方を選ぶ。

その時の「希望」とは「はじまり」と言い換える事もできるかもしれない。まだ未完成のもの、だけど夢を見る事ができるもの、だからこそ、そこからはじまるものがいい。決して得意な方に行くのではない。例えば、自分が得意な手慣れたものと、未知だけれど見た事のないものに出会えるかもしれないというものだったら、どんなにリスクがあったとしても未知のものの方を選ぶ。

 

ものづくりの核は「外」にある

食べ物も、身体の中の外(食道)を通り、外(腸)から、身体はその栄養を吸収していく。アイデアの出し方も同じである。自分の中にあるものや経験だけではなくて、外を歩いていてふと目に留まるもの、ふわっと感じること、そういうものから何かを吸収し、それが栄養となり、ものづくりの上での最も大事な中心を作っている。

 

忙しい時ほど意識的に「隙間」をつくる

忙しくなってくればくるほど、気をつけている事の1つが「隙間」をつくること。音楽を聴く事や仕事と仕事の間の移動で車を運転する事などで、連続する仕事の間に「隙間」をつくる。仕事に入る時も、いきなり本題に入るよりも、前の仕事から緩やかにグラデーションのように次に移行していく方がいいので、その間をつなぐ要素として「無駄な会話」を大切にする。そうやって、1つの仕事のテンションの終わりかけと、次のはじまりがうまくつながっていくように流れをつくる。

 

一緒に仕事をする人を選ぶ

プロジェクトにおいて人選びをする時、この人と行ったら何かが起こるだろうというワクワクを感じさせてくれる人を起用する。表現というものには正解がないからこそ、どこに向かっていくのかはそこに集まる人間の見えない何かがつくる気の流れが決めていく。写真家であれば写真が撮れるし、絵描きであれば絵が描ける。とはいえ、決して誰でもいい訳ではなく、プラスアルファで何かが欲しい時に「その現場でどんな事に出会いたいか」という事を大事にする。そのためには現場に誰と一緒に行きたいと思うかが、人選びの大きなポイントになる。

 

徹底的な一人会議からアイデアは生まれる

1つの依頼に対してたくさんのアイデアを出していくのは当然だが、そのアイデアが出揃ったあたりで、最後に目をつぶってその全部を思い浮かべ、自分の中で会議をする。その時の自分の数は20人以上。その人達は本当にいろんな意見を言い合う。広告を見る人達はもっと多数いて、それぞれ違った価値観を持つ人達。だからあらゆる視点で会議をして、あらゆる可能性をシュミレーションする事は大切である。

その一人会議を徹底的にやった後は、心の中でその全部の案を1つずつ、手の中でギューッと掴んで、パッと手放す。それをやっていく内に、手放しても落ちないものが、必ず1、2個手元に残る。それは自分の身体に既に入ってしまっているもの。結局、そうやって最後に選択するのは、頭ではなくて「心」であり「身体」。だからそれは既に自分が本能的に向かいたい生き方としっくりと1つになっているものなのである。

 

アイデアの「最後の一滴」を絞り出す

アイデアは誰でも出す事ができる。日々、見ているもの、聞いているものがある限り、アイデアは絶対に出てくる。ただ、それが面白いか面白くないかだけであって、皆、面白くてすごいアイデアを出そうとしているから、アイデアが出ないと思っているだけである。しかも、そのアイデアが面白いかどうかを自分の中だけで判断してしまっている事も多い。

自分のアイデアは人に話しまくる。その中には皆が困ってしまうようなつまらないものもある。しかし、相手の表情を見て思い付いた事を話して、またその反応を見て再度確認したりする。面白いから発言するのではなくて、とにかく外に出してみる。

 

以前、Mr.Childrenの桜井和寿さんがこう言っていた。「最後の尿漏れが一番素晴らしい」と。音楽をつくる時も同じ感覚があるそう。アイデアも出し切っているから最後の、ずっと深いところにあるものまで出せる。その他のものを出し切っていなければ、最後の一滴は出す事はできない。

アイデアはどこにでもある。しかし、それを入れるためには空っぽにしておかなければならない。そのためにも、アイデアが生まれたらどんどん出すのである。