トヨタ生産方式の逆襲

発刊
2015年1月20日
ページ数
230ページ
読了目安
262分
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トヨタ生産方式の使い方
「トヨタ生産方式」の本来の使い方をトヨタ出身のコンサルタントが解説している本。世の中には「トヨタ生産方式」を間違った使い方をして、失敗している企業が多いと指摘する。

かんばん方式とは

「売れる機会の損失を防ぐために、いかに適正な在庫を持つか」が、トヨタ生産方式の真髄の1つである。その時に武器になるのが、「かんばん」である。

「かんばん」には2種類ある。

①仕掛けかんばん
後工程から部品を引き取られた事で、新たにその部品の生産指示をするためのもの。

②引き取りかんばん
後工程が前工程に引き取りに行く際に、数量や品番などを間違えないで引き取るための確認用のもの。

「かんばん方式」を取り入れている企業の多くは、この「引き取りかんばん」だけを導入して、「仕掛けかんばん」は導入していない。「かんばん方式」で肝心な事は、「引き取りかんばん」と「仕掛けかんばん」の組み合わせである。「引き取りかんばん」は工程同士、あるいは企業間同士の情報のやり取りである。その情報に基づいて、各工程は売れているモノだけを造れるように「仕掛けかんばん」を活用する。

そもそも「かんばん方式」とは、販売現場での売れ筋情報が即座に生産現場にフィードバックされて、自律神経が働くかのように生産ラインが動いていくために用いる。

 

かんばん方式の基本条件

モノ造りの最大のポイントは、顧客の要求に素早く対応し、欠品や在庫過多を引き起こさない事である。生産量と販売量にギャップを生じさせないモノ造りができるか否かが、企業存亡の鍵である。

そのモノ造りを徹底させるためにも、後工程が必要なものだけを前工程から引き取る「後工程引き取り」、各工程で保管している中間在庫がなくなった時にだけモノを造る「後補充」が重要である。

①過不足のないモノ造りには「後工程引き取り」が不可欠
②不要な中間在庫を持たないためには「後補充」が必須
③各工程間で、円滑な情報共有をするためには「引き取りかんばん」「仕掛けかんばん」の2種類のかんばんが必要
④こうした一連の工程を誰の目にも明らかにさせる「見える化」させるために、製品置き場である「ストア」の設置が重要

これら4つを有機的に関連付ける事で、モノ造りの力は飛躍的にアップする。

 

真のカイゼンには常識を疑うことが大切

トヨタ生産方式の本質とは「なぜ」を繰り返し、課題の本質に迫り、会社を構造改革していく事にある。その対象は、生産現場に限った事ではなく、仕事の上流である開発から下流の販売まで一貫した流れの中で、仕事への取り組み方を見直し、たゆまない改革をしていく事である。

そして、自社の課題に対応するには何が必要かを徹底的に考え抜いた結果、「トヨタ生産方式も使える1つの手段にすぎない」という事が分からないと、真のカイゼン活動はできない。トヨタ生産方式を金科玉条のごとく信奉するのではなく、自社にとって必要不可欠な「武器」として徹底活用するのである。

そのためにも、常識を健全に否定し、先入観を排除できるかが問われている。社内の古い「常識」にとらわれたまま、パラダイムを変える事ができなければ、いくら努力しようとも結果は水泡に帰してしまう。

 

常識を疑う時の5つの着眼点

①会社の倉庫
品切れを起こす「欠品」と、売れないものが山積みされる「在庫過多」は、実は原因が同じである。原因は、製品の流れが「見える化」できていない事にある。仮に高額の設備投資をしても、何時何分に、どの製品がどのくらいの数量、どこの顧客に売れたのか、現場で正確に把握できないと、欠品や在庫過多は起こる。

欠品、在庫過多を解決するには、来た注文に対していかに敏感に反応できるかの、素早いレスポンスが重要である。顧客のために適正在庫を持った上で、在庫が減った状況に対して、いかに素早くきめ細かに反応する仕組みを作るかが重要である。

「在庫」を持たないという考え方は正しくない。売れるものについては在庫を持つべきだし、在庫を持つ事で売れ始める製品もある。「売れる機会の損失を防ぐために、いかに適正な在庫を持つか」が、トヨタ生産方式の真髄の1つである。

 

②外注コスト
外注のコストは本当に安いのか。人件費が安い外注を使った結果、賃金が高い親会社の経理部や購買部のホワイトカラーが増える事は、正しいコスト削減ではない。海外から部品や材料を運んでくると、リードタイムが長くなる。人件費を安く抑えたいのならば、自社工場内に外注企業に入ってもらい、リードタイムを短くしてモノを造るべきである。

 

③納期回答
最大の顧客満足とは「お客を待たせない」事である。この点を突き詰めれば「納期回答など不要」である。納期回答の正体とは「顧客に届けるまでに必要な時間」を宣言する事である。よって、短時間か長時間かの違いこそあれ、顧客を待たせる事には変わりない。顧客の要求に素早く対応できないという事は、顧客に我慢を強いているだけである。

 

④引き当て
引き当てとは、まだ商談段階で成約に至っていないものの、商談成立した際にすぐに出荷できるように、在庫製品に予め営業が「唾」を付けて、仮押さえする事である。引き当てという仕組みが存在するのは、不正確な需要予測に基づく見込み生産によって、欠品や在庫過多を引き起こすのが「常態化」しているからである。

 

⑤新製品への切り替え対応
余った資材を使い切るために、旧製品と新製品を並行して生産する企業は意外と多い。問屋に対しても旧製品は最低でも2〜3割くらいは値引きしないと出荷できない。小売の現場ではさらなる値引きが求められる。資材が余っているが故に、旧製品を造り続けて、旧資材を捨てないという、一見ムダのない行動を取っているように見えて、結局は損をする生産をしている。

 

業界の商慣習という「常識」を疑い、知恵を出し合い、仕組みを変える事ができれば、あらゆるカイゼンが実行可能になる。