スタートアップの経済学

発刊
2022年8月1日
ページ数
320ページ
読了目安
609分
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推薦者

スタートアップの現実
スタートアップについて、経済学の視点から様々な研究でわかっていることを解説しています。
起業家が創業時に直面する課題や、どのような起業家が有利なのか、スタートアップの成長要因は何かなど、国内外の研究で示されている事例などが幅広く書かれています。
スタートアップの業界を俯瞰的に捉えるのに適した一冊です。

スタートアップの現実

スタートアップ企業には社会から大きな期待が寄せられている一方で、その多くは創業間もなく消滅することが知られている。創業したスタートアップ企業のうち、80〜90%は最終的には失敗すると言われている。設立後5年間で約半数の新しい事業者が退出していることが明らかになっており、これは多くの国、産業において共通した傾向であることがわかっている。

 

これは、スタートアップ企業が新規性の不利益に直面するからである。新規製の不利益とは、企業の「新しさ」に起因する様々な不利益のことを指す。スタートアップ企業は、創業後に多くの時間と労力をかけて様々な事柄について学習しなければならない。ルーチンも確立しておらず、ネットワークも構築されておらず、安定した顧客もいない。また、スタートアップ企業は取引履歴がないため、資金の貸し手にとっては情報が得にくく資金提供をためらう傾向がある。取引先の開拓や従業員の採用も容易ではない。

創業時の企業の規模は一般的には小さいことから、スタートアップ企業は小規模性の不利益にも直面する。スタートアップ企業は効率的な規模での操業が難しいため、既存の大企業と比べてコスト面で不利であると考えられる。

 

アントレプレナーのサクセス・ストーリーは、次世代のアントレプレナーに対してのロールモデルとなり、社会に夢を与えるかもしれない。しかし現実には、多くのアントレプレナーが夢破れ、成長を遂げないうちに自身の創業した企業の閉鎖を余儀なくされているという事実を直視しなければならない。

 

スタートアップ企業のうちどのくらいの割合が高成長を実現しているのか

ドイツの研究では、全体の約40%のスタートアップ企業は成長を実現するどころか、失敗あるいは規模の縮小を余儀なくされている。現状維持の企業を含めると全体の80%近くのスタートアップ企業は成長していないことが示されている。また、スタートアップ企業のうち高成長企業と呼ばれる企業の割合は4%に過ぎない。

 

また、企業成長は持続するのかという問いは、多くの研究者によって検証されてきた。これらの研究から明らかになっていることは「高成長は持続しない」ということである。高成長企業であり続けるのは非常に稀な事象であり、高成長企業のほとんどは一発屋であることが示唆されている。

 

どのようなスタートアップ企業が成長するのか

スタートアップ企業が成長するためには「アントレプレナー」「企業」「戦略」の3要素すべてがうまく組み合わさることが重要であると言われている。

これらの成長要因のうち、国内外の研究において特に注目されてきた4つの観点は次の通りである。

 

①企業規模と年齢

企業の成長率は企業規模に依存しない。イギリスの研究では、従業員が8名以下の企業までは小さい企業が速く成長する傾向があるが、その規模より大きくなると規模と成長の間に明確な関係は見られないという結果が示されている。

そして研究では、「規模が小さいから企業が成長する」のではなく、「小さい企業の中で成長するのは年齢の若い企業である」ことが示唆されている。

 

②アントレプレナーの人的資本

人的資本の水準が高いアントレプレナーによって設立されたスタートアップ企業は、そうでない企業と比べて相対的に成長スピードが速いと考えられる。資本市場の不完全性と情報の非対称性が存在する状況においては、アントレプレナーの人的資本は、外部の資金提供者を含めたステークホルダーに対して、企業の能力やポテンシャルに関する重要なシグナルを与える。アントレプレナー個人の人的資本の水準が高い企業はシグナリングの結果として資金調達が相対的にスムーズになると考えられる。

 

③ベンチャーキャピタル

創業からある程度時間が経つにつれて、VCの役割の重要性が増す。VCは能力が高く成長ポテンシャルを有する企業をスカウトするために、多くの時間と労力を費やす。このようなVCのスカウトの役目は勝者選抜と呼ばれる。同時にVCは投資先企業に対して助言を行うなど、経営に深く関わることで成長企業を育成する役割を果たす。このようなコーチとしての役目を勝者育成と呼ぶ。VCの勝者選抜、勝者育成の役割は多くの研究において確認されている。

 

④イノベーション

いくつかの研究からは、研究開発型スタートアップ企業は非研究開発型スタートアップ企業に比べて成長率が高い傾向があることが示されてきた。しかし、研究開発投資はすべての企業において同じ影響を持つのではなく、一部の企業の成長にしか影響を与えない。例えば、企業成長率分布において上位に位置する高成長企業のみが、研究開発によって成長を実現できることがわかっている。

 

企業成長の研究においては、これをすれば必ず成長するという証拠は見つかっていない。企業成長は「運」も大事な要素であることが指摘されている。どのような企業が成長するか事前に予測するのは非常に難しいと言える。