脳は世界をどう見ているのか 知能の謎を解く「1000の脳」理論

発刊
2022年4月20日
ページ数
328ページ
読了目安
535分
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知能のメカニズムを解き明かす理論
人間の知能はどのようなメカニズムで生まれるのか。脳の仕組みを解説しながら、まだ部分的にしか解明されていない知能の仕組みに関する仮説を紹介している一冊。
知能のメカニズムが解明されると、同じものを機械で再現することができるとし、AIの未来についても書かれています。

知能をつかさどる脳の構造

脳は古い部位の上に新しい部位を加えることによって進化した。私たちの脳の最も新しい部位は新皮質である。新皮質があるのは哺乳類だけだ。人間の新皮質は特に大きく、脳の容量の約7割を占める。

新皮質は知能の器官である。私たちが何かを考える時、考えているのは主に新皮質である。新皮質の様々な領域は、脳の白質である新皮質の下を通る神経繊維の束によって互いにつながっている。階層的な領域間の結合もあって、情報は領域から領域へ、フローチャートのように整然と流れることを示している。しかしあまり秩序がないように思える領域間の結合もあって、情報は一度に全体に広がることを示唆している。

 

新皮質は基本回路のコピーをたくさんつくることによって大きくなった。神経科学者ヴァーノン・マウントキャッスルによれば、新皮質の部位はどれも同じ原理で働くという。視覚から触覚、言語、高次の思考まで、すべて根本的に同じなのだ。違うのは本質的な機能ではなく、何とつながっているかである。皮質のある領域を眼の領域とつなげれば、視覚が生まれる。領域を他の領域とつなげれば、言語のような高次の思考が生まれる。そして、新皮質のあらゆる部位にある基本機能を見つけられれば、全体の仕組みを理解できる。

新皮質の基本単位、知能の単位は「皮質のコラム(柱状構造)」だという。新皮質の表面を見ると、皮質コラム1個は約1平方㎜を閉めている。容積は2.5立方㎜になる。この定義からすると、人間の脳にはおよそ15万個の皮質コラムがぎっしり並んでいる。皮質コラムは、細いスパゲッティの小さなかけらのようなものと想像して構わない。これが15万個、縦にぎっしり並べられているようなものだ。コラムはさらに数百の「ミニコラム」に分かれ、100個あまりのニューロンが入っている。

新皮質全体で、コラムとミニコラムが同じ機能を果たし、知覚と知能のあらゆる面をつかさどる基本アルゴリズムを実行しているのだ。人間の脳の仕組みを理解するということは、新皮質の仕組みを理解することだ。それには、皮質コラムが何をするかを理解する必要がある。

 

脳は感覚入力から世界の予測モデルを学習する

新皮質は、何を見たり聞いたり感じたりしようとしているか、同時に複数の予測を立てている。私たちが眼を動かすたびに、新皮質はこれから何を見るのかを予測する。そのために新皮質は世界のモデルを学び、そのモデルに基づいて予測する。
脳が持つ世界のモデルには、物体がどこにあるか、そして自分がその物体と関わり合うと、物体がどう変わるかも組み込まれる。人はこの知識を生まれつき持っていない。人生のどこかで学習し、新皮質に蓄えているのだ。

脳は入力が何かをたえず予測する。予測は決して止まることのない固有の属性であり、学習に極めて重要な役割を果たす。脳の予測が正しいと証明された時、それはつまり脳が持つ世界のモデルが正確だということだ。予測が間違っていたら、人はその誤りに注意を向けて、モデルを更新する。こうした予測は、脳への入力と合っている限り、ほとんど意識されない。

 

脳は感覚入力が時間とともにどう変わるかを観察することによって、世界のモデルを学習する。脳が何かを学習する唯一の方法は、入力の変化である。では、新皮質は、どうやって動きから世界の予測モデルを学習するのか。この疑問に答えられれば、新皮質が何をどう行うかを理解でき、最終的に同じように働く機械をつくることができる。

 

脳は座標系によってあらゆる知識を整理する

皮質コラムは観察される物体それぞれに座標系をつくり出す。座標系は何かの周囲にくっついている、目に見えない三次元の格子のようなものだ。座標系があるおかげで、皮質コラムは物体の形を決める特徴の位置を学習できる。

座標系はあらゆる種類の知識を整理する方法だと考えられる。皮質コラムは知っているあらゆる対象の座標系をつくり出す。その後、座標系には他の座標系へのリンクが追加される。脳は追加分も含めた座標系を使って、世界をモデル化する。

 

座標系は世界の構造を、つまり事物がどこにあるか、それがどう動いて変化するかを、学習するための基盤になる。私たちが直接感知できる物体だけではなく、見たり感じたりできない対象や、さらには物理的形状を持たない概念も、学習する基盤になりうる。

脳にある15万個の皮質コラムそれぞれが学習する機械だ。コラムそれぞれが、入力の経時変化を観察することによって、その予測モデルを学習する。コラムは自分が何を学んでいるか知らないし、モデルが何を表しているのかも知らない。活動全体もできあがるモデルも、座標系に基づいて構築される。

 

私たちの知識は、何千もの皮質コラムに分散している。コラムそれぞれは完全な感覚運動システムである。では、モデルが何千もあって、なぜ知覚は1つなのか。知覚はコラムが投票によってたどり着いた合意である。皮質コラムの投票のメカニズムによって、脳は膨大な種類の感覚入力を、感じられているものの単一の表現に統合することができる。

 

脳は複雑である。どうやって場所細胞と格子細胞が座標系をつくり、環境のモデルを学習し、行動を計画するかの詳細は、部分的にしかわかっていない。研究が進行中の分野である。