限りある時間の使い方

発刊
2022年6月22日
ページ数
304ページ
読了目安
372分
推薦ポイント 22P
Amazonで購入する

Amazonで購入する

人生の時間はどう使えばいいのか
時間を効率的に使おうとすればするほど、私たちは忙しくなり、不安になっていく。効率化の罠と時間の本質を解説しながら、人生の時間をいかに使うべきかについて説いている一冊。

従来の時間術、ライフハックがいかに役に立たないかについて説明し、現代人が見失っている人生の時間の捉え方を気づかせてくれます。

生産性の罠

人生とは時間の使い方そのものだと言ってもいい。しかし現代のタイムマネジメントは役に立たない。タイムマネジメントの教えと言えば、いかに少ない時間で大量のタスクをこなすかだったり、いかに毎朝早起きして規則正しく過ごすかだったりする。
日々の雑務を効率化するための「ライフハック」もうんざりするほどある。仕事やエクササイズ、さらには睡眠から得られる利益を最大化するアプリやウェアラブル端末も増えた。それらを活用すれば、もっと仕事をこなして、もっと多くの会議に出席し、もっと多くの習いごとに子供を連れていき、もっと多くの利益を会社にもたらすことができるかもしれない。

ところが皮肉なことに、それに成功したところで、ストレスは減らない。以前よりももっと忙しく、もっと不安で、もっと空虚な気分になるだけだ。タイムマネジメントやライフハックの技術は、大事な真実を見落としている。「時間を思い通りにコントロールしようとすればするほど、時間のコントロールが利かなくなる」という真実だ。

 

食器洗い機や電子レンジやジェット機は、私たちの使える時間を増やして、より豊かな生活を可能にするはずだった。しかし、実際は時間が増えたと感じていない。むしろ生活が加速したせいで、みんな以前よりイライラしている。

効率を上げれば上げるほど、ますます忙しくなる。タスクを素早く片付ければ片付けるほど、ますます多くのタスクが積み上がる。生産性とは罠なのだ。

 

時間を支配しようとする者は、時間に支配されてしまう

問題は時間が限られていることではない。本当の問題は、「限られた時間をどう使うか」について、私たちが厄介な先入観を刷り込まれていることだ。ああしなくては、こうしなくてはという思い込みが、状況を確実に悪化させている。

現代人にとって、1時間や1日、1年という時間は、ベルトコンベアで運ばれてくる容器のようなものだ。時間を有効活用するためには、通り過ぎる前にせっせと容器を埋めなければならない。やることが多すぎて容器に入り切らないと、忙しすぎて疲れてしまう。容器が埋まらないまま流れていってしまうと、時間を無駄にしたと感じる。ちょうどいいペースで容器を埋めている時だけ、「時間を管理できている」という気分になり、焦燥感や罪悪感から逃れられる。

 

時間は元々、生活が繰り広げられる舞台であり、生活そのものだった。ところが、時間はどんどん生活から切り離され、「使う」ことができるモノになった。時間を「使う」ようになった私たちは、「時間をうまく使わなければ」というプレッシャーにさらされる。時間の有効活用ばかり考えていると、人生は想像上の未来に描き込まれた設計図となり、物事が思い通りに進まないと強い不安を感じるようになる。そして、時間をうまく使えるかどうかが、自分という人間の価値に直結してくる。時間をコントロールできなければ、罪悪感でパニックになる。

問題は、こういう時間の捉え方が、人生の難易度を極端に引き上げてしまうことだ。どんなに必死で頑張っても、まだ何か足りない気がする。もっと速く、もっとたくさんやらなければ気がすまない。

私たちは時間をあるがままに体験することをやめて、「今」という時間を未来のゴールにたどり着くための手段に変えてしまった。今を犠牲にし続けると、私たちは大事なものを失ってしまう。今を生きることができなくなり、未来のことしか考えられなくなるのだ。いつでも効率ばかりを考えて、心が休まる暇はない。

 

今を生きる

将来のことを考えたり、計画を立てたりする時、私たちは「時間を所有したり使ったりできる」という前提に立っている。その前提のせいで、いつもイライラしたり、不安になったりしている。
計画を立てるのは悪いことではない。未来を良くしようという努力には何の問題もない。本当の問題は、その努力が成功するかどうかを、今この時点で確実に知りたいと思う心理にある。それが不安を生むのだ。

その不安から解放されるための秘訣は、「未来は決して確実ではない」という事実を受け入れることにある。どんなに必死で計画し、心配しても、未来について安心できるわけがない。すべてが確実にうまくいくことなんて不可能だ。

 

過去は変えられず、未来はどうなるかわからない。そう考えれば、古代から多くの思想家が「今ここにある現在」に注意を向けなさいとアドバイスしているのがわかる。今この瞬間だけが、私たちに関係のある唯一の時間だからだ。

 

今を生きるための最善のアプローチは、今に集中しようと努力することではない。むしろ「自分が今ここにいる」という事実に気づくことだ。「今を生きよう」と言う時、私たちは自分を「今」から切り離した上で、今をうまく生きられたかどうかを判断しようとしている。

今を生きるとは、今ここから逃れられないという事実を、ただ静かに受け入れることなのかもしれない。