お互いを気にかける空気をつくることが最も大切
「隣の人と話もしたくない」という状態では、どんなプロジェクトもうまくいかない。お互いを気にかける空気をつくることは、人が集団で何かを成し遂げる上で一番大切なことである。誰かのことを思いやり、どんな小さなことでも相手のために具体的に良いことをする。互いが互いの存在を意識し、足りない部分を補い合うこと。そんなあたたかい空気が現場で感じられるようになったら、プロジェクトは自然と前に進み出す。
どんな凄腕のマネージャーでも、百人分の仕事を1人ですることはできない。「この人と一緒に働きたい」と思ってもらえるマネージャーであることが大切である。
仕事がつらくなる理由は、必ずしも激務だからだけではない。それよりも、一緒に働く人と明るくほがらかにコミュニケーションが取れないことの方がずっと大きな要素になる。一緒に働く人たちが、お互いを思いやること、気にかけること。停滞したプロジェクトには、圧倒的にそれが不足している。
しかし、お互いがお互いを気にかける空気が生まれれば、プロジェクトは回り始める。やわらかい空気があれば、メンバーから積極的に様々な意見が出てきて、自然と問題は解決していく。これが崩壊寸前のプロジェクトを立て直す最良の方法である。
人はやさしくあれる時こそ自然な状態であり、ふんわりとやわらかに満たされた幸せを感じることができる。そして、そのやさしさは自分だけでなく、自分に関わるすべての人の幸せにつながっていく。
プロジェクト・マネージャーに必要なこと
プロジェクト・マネージャーに必要な素質は「人の気持ちに寄り添えること」である。それは、プロジェクトで働いている人が、何のためにここで仕事をしているのかに心を向けること。プロジェクトの仕事を楽しんでいるかに心を向けること。
今ここにいる、関わる人たちがどんな思いで仕事をしているのか、その人たちの思いが積み重なってプロジェクトが前に進んでいく。人はこのプロジェクトがうまくいくのか、この先自分たちはどうなるのか、といったことにとても敏感である。特にプロジェクト・マネージャーがピリピリしていれば、プロジェクト全体の空気が悪くなる。
人は誰でも、人と話をする時「否定されるかもしれない」「聞いてもらえないかもしれない」という恐れを持っている。そして、実際に話を頭から否定されたり、途中で遮られてしまうことが繰り返されると、話をしたくなくなる。
まずは自ら心を開くこと。そして人が心を開いて話をしてくれた時には、最後まで聴ききること。そうすれば相手の反応は必ず変わる。最後には「聴いてくれてありがとう」という言葉さえ出てくる。
人が話をするのは、何か用事がある時だけではない。とにかく話を聞いて欲しいだけのこともある。そんな時でも相手の思いに寄り添い、「わかるよ。本当にそうだね」と、ただただ肯定して聴いてくれることが、相手の心に触れる。そして最後には、ただただ感謝が生まれ、この人と一緒に仕事をしよう、このプロジェクトを一緒に成功させよう、という気持ちが生まれる。この人と人とが一緒になってプロジェクトを成功させよう、と思える空気づくりができると、仕事は楽しくなり、現場も明るくなり、活発に意見をやり取りして仕事を進めることができるようになる。
プロジェクトをマネジメントするということは、「一人では何もできない」ということと向き合うことかもしれない。一人では何もできないにもかかわらず、重い責任を私一人が背負わなければいけないと思い込んだ時、人は潰れてしまう。
周りの人に寄り添うことは、周りの人が私に寄り添ってくれることである。「みんなの力が必要です。お願いします」と心から頭を下げられる人が、本当のリーダーである。