アマゾンVSウォルマート

発刊
2022年3月2日
ページ数
208ページ
読了目安
279分
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推薦者

小売業界の進化とこれから
アメリカの流通小売業界に詳しいジャーナリストが、世界一の売上を誇るウォルマートと、それを追うアマゾンの経営戦略を解説している一冊。
アメリカの小売業界を変えたウォルマートの仕組みやデジタル戦略、対するアマゾンの戦略など、流通小売業界の先端を走る2社の向かう先が書かれています。

ウォルマートのイノベーション

ウォルマートはアメリカの流通業界を根本から変えた企業である。彼らがやったことを一言で言えば、それまで部分最適でそれぞれやってきた製配販を一気通貫として全体最適を図ったことである。

 

ウォルマートは、元々小さな雑貨屋からスタートしている。創業者サム・ウォルトンが小さなバラエティストアのフランチャイザーとして小さな店を構え、時代の変化を敏感に察知し大型化したディスカウントストアを開発したら大繁盛して急速に成長、途中でさらに大型化し食品を加えてスーパーセンターへと進化し、これが主力となった。
2020年度末現在スーパーセンターは全米に3570店舗となっている。この大きな店舗を主力として5000店舗以上をチェーンストアとして運営している。

サム・ウォルトンの商売上の信条は「良いものを安く」という極めてシンプルながら小売の本質とも言える考え方を基本としていて、元々食品や非食品といった取り扱い範囲の区分けは彼の頭の中にはなかった。

 

ウォルマートのビジネスモデルは、EDLP(Every Day Low Price 毎日低価格)と、EDLC(Every Day Low Cost 毎日低原価)である。EDLPとは店頭の売価を1つとして定期的な値下げプロモーションをしない価格政策である。その対極にあるのがチラシやイベントに合わせて定期的に価格を上げたり下げたりを繰り返す価格政策でハイローと呼ぶ。

販促企画によって売価を一定期間下げるハイローの目的は売れ個数のアップである。しかし、短期間に売価を変えて売れ個数を増やすと、プロセス負荷は増大する。

 

EDLPでは、製配販を一気通貫として効率化で得た経費削減分を売価に反映させ、EDLP価格を下げて価格競争力を強化してプライスリーダーとなる。ウォルマートがEDLPに取り組み始めたのは1980年のことである。
EDLPと対になっているのがEDLCだ。このコストとは原価、サプライヤーとの取引価格である。EDLCとは、サプライヤーによる小売への仕切り値、小売にとってのサプライヤーからの仕入れ値が、年間を通して上下しない一定取引価格を意味している。取引原価が1つで、1つの値入率で売価が決まり、その売価を年間通して維持する。もし取引原価が下がったら、同じ値入率で売価を変えて、そのまま年間を通して固定する。これがEDLP/EDLCモデルの基本である。

 

EDLPは製配販一気通貫での効率化を図るビジネスモデルで、小売単体では成立しない。サプライヤーによるEDLCへの協力が不可欠で、さらにサプライヤーにも恩恵がなければならない。

このビジネスモデルは、元々はコストコに代表されるメンバーシップ・ホールセール業界によるもので、ネット・ネット・プライシングと呼ばれている取引慣行である。これをウォルマートがEDLPにかけてEDLCと表現を修正した。

 

ウォルマートはただの「安売り店」ではなく、安く売るためにはどうすれば良いのかを考え抜いて、上流までさかのぼっていって全体最適を図るということをして、結果として業界全体にまで影響を与えるに至った。

 

ウォルマートのデジタル戦略

そもそもウォルマートはテクノロジーの導入においても先進的な企業だった。グーグルやアマゾンといったデジタル系企業が急速に成長し、いつの間にか後れをとってしまい、この数年で一気に追いつこうとしているというのが実情である。

 

ウォルマートは2016年に総額30億ドルで、ジェット・コムを買収し、EC業界のカリスマとも言われる創業者のマーク・ロリーを迎え入れている。このジェット・コムの人材と技術がウォルマートの進化を支えた。

1つ目は、軌道の変化だ。停滞しつつあったEC組織にジェット・コムという思想の異なる集団が入り込んだことが刺激となって、進化する方向へと軌道が変わった。2つ目はウォルマートにない商品セレクション。ブランドイメージの観点から、昔ながらのウォルマートでは売りたくないというサプライヤーを取り込んだ。

 

ロリー時代に進んだ施策をまとめると、店舗は従来通りのEDLPを主体としたディスカウントストアとしてのビジネスモデルを維持しつつ、ECは品揃えを拡大してアマゾンに近づけていくこと、店舗をフルフィルメントセンターとすること、これに合わせて物流システムをバージョンアップすることの3つだ。

ロリーがECの責任者となってから繰り返し発言し続けたのは、リアル小売企業は店舗という資産を持っており、これがEC企業に対する強みなのだ、だから有効活用しなければならないということだった。彼らは店舗のフルフィルメントセンター化を行った。具体的には次の5つである。

  1. 店舗にフルフィルメント用の作業場を作る
  2. BOPIS(ネット注文品の店頭受け取り)を強化する
  3. オンデマンド型短時間宅配企業を利用する
  4. 店舗をマイクロ・フルフィルメントセンター化する
  5. ダークストアとする
参考文献・紹介書籍