イギリス諜報機関の元スパイが教える 最強の知的武装術

発刊
2022年1月26日
ページ数
384ページ
読了目安
535分
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情報から論理的な決断を下すスパイの思考法
イギリスの諜報機関で長官を務めた著者が、情報分析官(スパイ)がどのように情報を分析し、判断するのかを紹介している一冊。
スパイの思考法を解説しながら、論理的に情報を扱い、物事を的確に判断するための心得を書いています。

スパイの仕事とは

各国の政府は現在、より良い意思決定をするために、情報を集めて分析する専門家を擁している。イギリスの秘密情報部(MI6)は海外に工作員を派遣しているし、情報局保安部(MI5)は法執行機関とともに国内の脅威を調べ、不審な者を監視する。政府通信本部(GCHQ)は情報を傍受し、電子情報を収集する。軍部も衛星やドローンからの写真撮影による情報収集を含め、海外活動において情報収集をする。

 

こうして集められた情報を取りまとめ、意思決定者が知らない領域を減らすために評価をするのが、スパイとも呼ばれる情報分析官だ。何が起こっているのかを理解し、その背景を説明し、今後どのように発展するかを予測するのが情報分析官の仕事である。

 

SEES分析:スパイの考え方

SEES分析は、判断へと到達するまでのプロセスを説明し、適切な信頼性を確立する体系的な手法だ。これを使えば、様々なレベルから得た4種類の秘密情報を読み解くことができる。

 

【第1段階】状況認識:何が起こっているのか、何に直面しているのか

【第2段階】事実説明:いま目にしているものをなぜ見ているのかという関係者の動機

【第3段階】状況予測:事態が異なる状況のもとでどう進展するか

【第4段階】戦略的警告:何がいずれ問題になりそうか

 

状況認識

私たちの知識は常に断片的で、不完全だし、間違っていることもある。経験に基づく偏見や先入観に注意が必要だ。SEES分析の第1段階「状況認識」では、新しい証拠によって直面する状況に対する考え方がいかに変わるかを科学的な方法で評価する。そうした評価に用いるのが、情報分析に広く使われている「ベイズ推定」だ。ベイズ推定は「条件付き確率」というものを用いて、目の前にある証拠から、その起因となる可能性が最も大きなものへと遡る。

 

p(N|E)=p(N). [p(E|N)/p(E)]

仮説=N、証拠=E

Nの事前確率=p(N)

Nの事後確率=p(E|N)

仮説Nが正しい可能性と、正しくない可能性が同じだと感じたらp(E|N)はp(E)と等しくなり、ベイズの公式の因数が同じであるため、事後確率は事前確率と変わらなくなる。

ベイズ推定は「入手した証拠が正しい」という信頼度を見直す助けになる。ベイズ推定では、新しい証拠が現れると、仮説に対する事前の信頼度を再評価し、事後の信頼度をつくる。この再評価で鍵になるのが、次の質問だ。

「もし仮説が実際に正しければ、その証拠を目にすることができる可能性はどのくらいあるのだろうか」

 

その証拠が仮説が事実であることに深く結びついているなら、仮説への信頼度は高くなる。ベイズ推定はSEES分析の考え方の中心であり、あらゆる事象に当てはめられる。ベイズ推定は、情報を元に、何が、いつ、どこで起こり、誰が関係しているかをすぐに知る必要がある意思決定者の助けとなる。

 

事実説明

情報分析官は、一般的に認められている科学的手法を用いて世界の動きを理解する。その結果は、観察されたデータに最適な説明を加えるための「仮説」となる。そして、仮説に反する新しい証拠に対しては、やり方を再考する用意をするのが最も大事になる。

 

一般的には、反証が最も少ない仮説を採用すべきである。強力な反証が出てくれば、仮説は無効になるからだ。一方、仮説に合致した証拠があるとしても、他の仮説の否定にはならない。情報分析官は、そうした考えに基づいて、より多くの証拠があるほど信頼度が高いと考えたくなる罠に陥らないようにしている。進行中の事態について考える時には、他の仮説が正しいという相対的な確率を意識することが重要である。

 

状況予測

事態がどう展開するか、また次に何が起こるかを予測するには、信頼できる「説明モデル」と十分な「データ」が不可欠だ。たとえそれを意識していなくても、未来について考える時には、私たちは頭の中で現在のモデルを構築し、選択した説明が時間の経過と共に、そして異なる情報や刺激に反応してどう変わるかを判断する。

 

情報分析官が次に何が起こるかを、確信を持って警告できることは滅多にない。予測には「注意事項」と「仮定」が追記されることがほとんどだ。将来の出来事について判断をする時は「信用度」を示し、それは「確率」として表す。

 

戦略的警告

様々な影響を受ける「長期的動向」が頭に入っていなければ、最初の兆候に気づくための十分な注意を払えない。その結果、「戦略的奇襲」と呼ばれるものを経験することになる。将来の危険に備えることができるように、早い段階からの警告が必要である。戦略的警告があれば、準備ができる。

 

重大な危険は初期の兆候が弱く、現実というノイズの多い状況においては感知するのが難しいこともある。ある出来事の起こりやすさ(確率)と、それが実際に起こった時の影響の度合いから、「出来事の期待値」を予測することができる。