地球外生命 アストロバイオロジーで探る生命の起源と未来

発刊
2021年12月21日
ページ数
274ページ
読了目安
391分
推薦ポイント 8P
Amazonで購入する

Amazonで購入する

生命はどのように誕生したのか
宇宙の生命を研究するアストロバイオロジー(宇宙生物学)を専門とする著者が、生命の起源と地球外生命の可能性について、現在わかっていることと、今後の解明が期待されることを紹介している一冊。

地球生命がどのように誕生したのかはまだ解明されていない。現時点で生命が誕生したとされる様々な説を紹介し、それらを実証するために計画されている宇宙探査の計画と可能性がまとめられています。

生命はどのようにして誕生したのか

1960年代に本格化した太陽系惑星探査の結果、原始地球大気がメタン・アンモニアを多く含む可能性はほとんどないとされるようになった。となると、原子地球上では、アミノ酸などはそう簡単にはできなかったことになる。

今日、有機物の起源として注目されているのが地球外物質である。隕石中に宇宙由来のアミノ酸や核酸の材料が存在することが証明されている。そして、できた頃の地球は極めて高温だったため有機物はほとんど残っていなかったが、冷えて海ができた後に降り注いだ隕石や彗星、それらから生じた塵などが有機物を届けてくれたと考えられている。

 

隕石などで届けられた有機物から、どのようにして生命にまで進化したのか。この部分に関しては、様々な説が唱えられているが、まだ定説はない。その中で有力な説の1つがRNAワールド説である。地球生命の特徴の内、代謝はタンパク質、自己複製と進化は核酸が担っている。この2つそれぞれが複雑な高分子であり、両者が同時にできるとは考えにくい。この説ではRNAが地球上に現れ、触媒作用と自己複製をRNAだけで行う原始的な生命システムができた後、より触媒として優れているタンパク質に触媒作用を任せるようになったとする。

しかし、この説の問題は、最初のRNAがどのようにしてできたかである。アミノ酸からタンパク質をつくるのも簡単な反応ではないが、さらにRNAはタンパク質よりはるかに作るのが難しい。

 

原始地球上での化学進化により、色々なエネルギーで様々な有機物ができることは間違いない。ただ、その中にアミノ酸や核酸の材料が含まれるといっても、生成した有機物のごく一部に過ぎない。この点に注目した「がらくたワールド」説では、海水中に溶け込んだ様々な有機分子によって、コアセルベートのような小袋に詰め込まれたものが多数できたとする。それらの袋の中に、優れた触媒作用を示す分子を含むものがあり、自然選択の結果、そうした優れた袋が増殖し、さらに進化し、やがてRNAのような洗練された分子が生み出されたとされる。

 

生命の起源は実証できるか

生命の起源研究の最大の問題点は、原始地球上で起きたはずの化学進化や初期生物進化の痕跡が地球上に全く残されていないことである。誕生した後の生命は35億年前の微生物の化石や38億年前の生命由来の炭素粒子などの痕跡として見つかっているものの、それらは共通の祖先誕生後のものかどうか、その生命システムがどのようなものだったかは全く読み取ることはできない。

 

ここで宇宙が鍵となる。生命のもとになった有機物に関しては、隕石の分析の他、小惑星や彗星の探査やサンプルリターンにより、今後も新たな情報が得られることが十分に期待できる。そのような地球外有機物や原始大気から生成した有機物は惑星環境でどう変化していくのか。これに答えてくれそうな天体が、土星の衛生タイタンである。2036年に予定されているタイタン探査が期待される。

さらに、太陽系で生命の存在が期待できる天体が片手に余るほど出てきた。それらの天体で地球と異なる生命システムや、生命になりかけの物質が見つかった時、生命起源研究は大きく進むだろう。

 

地球外生命の可能性

生命探査候補の番付を組むとすれば、東の横綱が火星、西の横綱がエンケラドゥス、東の張り出し横綱がエウロパ、東西の大関にタイタンとガニメデが並び、関脇以下に金星、ケレス、カリスト、トリトン、冥王星などが並ぶ。ただ、いずれの天体上でも生命はまだ見つかっていない。また、探査の対象としては微生物が主で、しかも場所としては多くの場合、太陽光が直接当たらない地下、もしくは氷の下が本命である。このため、地球から望遠鏡で観測するだけでは生命存在の確固たる証拠をつかまえるのは困難であり、探査機で出向く必要がある。

 

・火星

火星では生命が誕生しうる環境があったが、35億年前以降には火星の表面の水や大気の多くが失われ、生物の生存には厳しい環境になっていったことがわかってきた。火星はオゾン層がないため、火星表面での紫外線強度が強く、これに耐えられるような地球生物は知られていない。しかし、紫外線は土壌で容易に遮ることができるため、ほんの少し地下に潜るだけでも、地球生物でも生存可能になる。

 

・エンケラドゥス

土星の衛星エンケラドゥスからは水の他、有機物を含む様々な気体成分、食塩などの塩類やシリカの小さい粒が吹き出していることがわかった。これは氷の下に液体の水が存在する動かぬ証拠である。さらに、有機物も確認されたことから、エンケラドゥスは現在も生命が存在する可能性に関して言えば、火星やエウロパをもしのぐ。

エウロパの場合、有機物がまだ検出されていないのに対し、エンケラドゥスは、プルーム(水煙)中に分子量100を超すような大きい有機物の存在が確認されている。また、シリカの小さい粒が存在することは、エンケラドゥスの海底に少なくとも100℃以上の熱水活動が存在することを意味する。海が衛星全体に広がっている可能性が高いとされている。

参考文献・紹介書籍