AI監獄ウイグル

発刊
2022年1月14日
ページ数
336ページ
読了目安
544分
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AIによってもたらされたディストピアの現実
新疆ウイグル自治区で行われている中国による支配の実態を取材した一冊。人口1,100万人のウイグル人に対し、推定180万人が強制収容所に送られ、思想教育を受けているとも言われる監視社会の現状が描かれています。
DNAをはじめとする生体データやスマートフォンの記録、家の中にも設置されるという監視カメラのデータなどから、AIが犯罪を予測するシステムを構築した完璧な警察国家の状況が、取材によって浮かび上がっています。

監視ディストピア社会

中国西部の新疆ウイグル自治区では、2017年以降、推定180万人のウイグル人、カザフ人、その他の主としてイスラム系少数民族の人々が、「思想ウイルス」や「テロリスト思考」を持っていると中国政府から糾弾され、地域全体にある何百もの強制収容所に連行された。収容所の多くは高校などの建物が再利用されたもので、そのような一般的な建物が拷問、洗脳、教化のための拘留施設に変わった。

たとえ収容所送りを免れたとしても、新疆での生活は地獄だ。政府から派遣されてきた監視員が、家に滞在し、毎朝、忠誠心、イデオロギーの純粋さ、共産党との友好関係という国家の美徳を家族に教え込む。監視員は様々な質問を投げかけて、成長をチェックし、政府が呼ぶところの「心のウイルス」や「3つの悪」(テロリズム、分離主義、過激主義)に感染していないかを確かめる。

朝の教化活動が終わると、今度はドアをノックする音が聞こえてくる。近隣の10軒の家に眼を光らせるよう国から任命された地域自警団の役員が、「不規則なこと」がないか家をチェックする。日課の検査を終えた地域自警団の役員は、家のドアに取り付けられた機器にカードをスキャンする。それは検査を終えたことを意味する。

 

出勤の前に車でガソリンスタンドに寄っても、夕食の食材を買いに食料品店に行っても、どの場所でも、入口に立つ武装警備員の前でIDカードをスキャンすることになる。カードをかざすと、スキャナー横の画面に「信用できる」という文字が表示される。それは政府によって善良な市民だと判断されたという意味であり、そのまま入店することが許される。
「信用できない」と表示された場合、その人物は入店を拒否される。すぐに統計データ記録の簡易チェックが行われ、場合によってはさらなる問題に直面する。なぜ「信用できない」と表示されたのか、はっきりした理由はわからない。警官がやってきて、尋問する。警官たちは「一体化統合作戦プラットフォーム(IJOP)」と呼ばれるプログラムを使い、スマートフォン上で身元を確認する。IJOPのデータベースには、何百万ものカメラ、裁判記録、市民の内通者などから政府が集めたマスデータが構築されており、それらすべてのデータがAIによって処理される。
「予測的取り締まりプログラム」に基づいてAIは、その人物が将来的に何らかの罪を犯すと判定し、強制収容所に送るべきだと勧告する。警官たちは同意し、その人物をパトカーで連行する。その人物は「再教育」の期間を終えてどこかの時点で戻ってくるかもしれないし、あるいは二度と戻ってこないかもしれない。

 

少数民族専用のレジの列に並んだ後、食料品の代金を支払う。政府の監視カメラとメッセージングアプリ「微信」によて、購入履歴は常に監視されている。食料品店を出て、車で職場に向かう途中、10ヶ所以上の「コンビニ交番」と呼ばれる検問所を通過することになる。
職場では、同僚たちが一挙手一投足を見つめている。始業前に全員が立ち上がって国家を斉唱し、テロリストを見つけ出す方法を説明する短いプロパガンダ映像を見る。
女性の場合、毎日正午、政府が提供する経口避妊薬を飲むことを求められる。政府は女性をたびたび地元の診療所に呼び出し、強制的に不妊手術を受けさせている。少子化が発展につながると政府は主張し、少数民族の出生率を下げようと試みている。

 

新疆ウイグルの弾圧

石油による富と建設ブームのおかげで、2001年から2009年にかけて新疆ウイグル自治区はある程度の平和と繁栄を謳歌した。しかし中国は、繁栄の成果を公平に分配しようとはしなかった。歴史的にこの土地に住み続けてきた新疆の少数民族よりも、富と機会を求めて東部からやってきた漢族の大集団の方が優遇された。

10年近くにわたって不満が鬱積した後、2009年7月、ウイグル人の暴徒たちは新疆ウイグル自治区の首府ウルムチで街頭デモを行った。政府は対抗措置としてインターネットと通信回線を遮断し、無数のウイグル族の若い男性たちを拘束した。その一部は分離主義に基づく暴力的な陰謀を扇動したとして処刑された。

 

2009年から2014年にかけて、迫害を受けた何千人ものイスラム系ウイグル人男性たちがアフガニスタンとシリアに渡り、イスラム国の関連集団による訓練・戦闘に参加した。いつか中国に戻って政府に対して聖戦を仕掛けることが、彼らの望みだった。これらの新しいテロリストたちが中国国内で一連の活動を始めた。

2014年から2016年の間に中国は、テロ対策の戦術をかつてない水準の残虐なものへと上昇させていった。解決策として利用されたのは、昔ながらの高圧的な取り締まりと「コミュニティー型警察活動」の取り組みだった。簡単に言えば、家庭、学校、職場で密告者を募るという作戦だ。さらに2016年以降、新しいテクノロジーを活用し、住民への監視と支配を強めていった。

中国が目指したのは、1つの民族のアイデンティティー、文化、歴史を消し去り、何百万人もの人々を完全に同化させることだった。