問題解決のジレンマ イグノランスマネジメント:無知の力

発刊
2015年4月3日
ページ数
276ページ
読了目安
403分
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問題発見の思考法
「無知」に気づき、「無知」を活用する「問題発見」のための思考法を解説した一冊。

無知・未知」に目を向けることが重要

「知識がすべての原点」ともいえる問題解決では「既知の未知」を「既知」に変えるために決められた変数を最適化する、あるいは「枠が決まった塗り絵を塗る」事が重要で、そのためにはある程度すでに体系化された知識を活用する。

これに対して、問題発見のフェーズでは、はるかに曖昧性や不確実性が上がり「変数そのものを探し出す」事が求められるため、過去の知識を用いつつ、そこから新たな創造性を発揮する必要がある。そのためにも「無知・未知」に目を向ける事が重要になってくる。

「無知・未知」を意識的に活用していくのに必要なのが「イグノランスマネジメント」という考え方である。既に知っている事だけでなく、知らない事に着目し、活用する。

 

事実と解釈の乖離

解釈は時代に応じて常に変化すべきものであるが、知識として「再利用可能」にするためには何らかの「スナップショット」を切り取って静的に固定しなければならなくなる。したがって時間を超えた普遍性がないために、環境変化が激しい時代では陳腐化して役に立たなくなってしまうものも多い。事実と解釈は時間軸で見て乖離が生じていく。そこに問題が生じる。問題発見を行う上での重要なポイントは、このメカニズムを認識してギャップを見つける事である。

 

「無知・未知」を活用する方向性

「無知・未知」を活用するには2つの方向性がある。

①無知の知
自らの無知を「メタ」のレベルで、つまり自分自身を上から見る視点で眺めて認識する。「未知の未知」をどれだけ意識できるかで勝負が決まる。

②素人視点
問題発見に必要なのは、知識をリセットする事である。特に「解釈」のレベルの知識は、時には悪い意味での「思い込み」となって人間の判断力を鈍らせる事がある。解釈レベルをすべてリセットして、無知の境地で素直に物事を見る事ができるかが問題発見の鍵となる。

 

未知の未知を意識する

「未知の未知」の領域がある事を意識する事が問題発見のために重要である。そもそも私達の既知の領域は非常に限られたもので、その中だけで考えていても所詮断片的かつ表層的な問題しか解決できないからである。

特に現代のように、与えられた問題を解くのではなく、問題そのものを見つけて定義する事が重要な時代においては「そもそも何が問題なのか?」を、予断や偏見を持たずに考えられる能力が重要となる。

問題発見と問題解決との発想の根本的な相違の根底には「知」の性質がある。「知識」とは事実と解釈の組み合わせの静的なスナップショットである。知識を積み上げる行為そのものが、次の新しい問題発見をする時の障害となる。

事実に関しての「上書き」は比較的簡単だが、目に見えにくい「解釈」については「上書き」がしにくい。そもそも特定の解釈が頭の中に埋め込まれてしまっている「未知の既知」にすら気付かない場合も多いからである。一度憶えた価値観はそう簡単には捨てられない。これが「知のジレンマ」の根本的原因である。

 

問題発見と問題解決との思考回路の3つの相違点

①「ストック vs フロー」
過去の経験や知識を、蓄積した「ストック」として珍重するか、一度使ったら捨ててしまっても構わないという「フロー」で考えるかの違い。「無知・未知」重視は、新しい知識を生み出すために使ったら後は捨ててしまっても構わないという「フロー重視」の考え方である。

②「閉じた系 vs 開いた系」
「閉じた系」で考えるとは、端的に言えば、物事に自らの常識や判断基準で「線を引いて」、その「内側と外側とを区別して考える」か、「すべてのものをありのままに見る」かの違いである。

③「固定次元 vs 可変次元」
基本的に前後あるいは左右という「2次元」の動きしかできないか、必要に応じて「跳ぶ」という「3次元」の動きもオプションとして持っている違い。「可変次元」は、変数の種類を増減させるなど、変化させて考える事ができる。

問題発見のためには「フロー重視」「開いた系」「可変次元」で考える事が重要である。

 

上から見る

問題を新たな視点で再定義するためには「次元を上げる」時の「メタ思考」を使う。「開いた系」の思考によって「壁を超える」。そこからさらに上位概念に「次元を上げる」事で、新しい思考の「軸」や「変数」を発見していく。

思考における上位概念とは、一般的には抽象度の上下を指す事が多い。つまり抽象度が高いほど「上位」であり、具体的であるほど「下位」である。「対象を1つ上のレベルから見る」という「メタ」の視点も上位概念の代表例である。「自分中心」の考え方に対して「自分を客観的に見る」視点である。これは「メタ認知」と呼ばれる考え方である。

「常識の壁」を認識するためには、その壁を「上から見る」事で、常識にとらわれている状態を把握する事がその第一歩として必要である。

 

上位概念で考えるための3つの手法

①抽象化・アナロジー
物事を抽象化して、上位概念において一見全く異なる領域同士の共通点を見つけて、そこから新しいアイデアを生み出す。

②思考の「軸」
思考の「軸」(個別の事実や事象を解釈するためのものの見方)を意識して考える事で、思考の盲点を見つけると同時に、1つの事象を様々な視点から検証する。こうした軸に従って、抽象化や分類が行われる事で、新しい知見が生まれ、創造につながっていく。

③Why(上位目的)
Whyだけが上位概念に行けるたった1つの疑問詞である。Whyだけが「そもそも本来の目的を解決するためには解こうとしている問題自体が違う」という形で問題を定義できる。