ミッション・エコノミー

発刊
2021年12月22日
ページ数
288ページ
読了目安
470分
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資本主義の未来のあり方とは
環境問題や公衆衛生、格差問題など、世の中の課題の多くは、現在の資本主義では解決できない。これまでの民間任せの政府のやり方を見直し、政府主導で「公共の目的」を掲げ、官民協働で課題解決にあたる経済の仕組みを設計することが必要であると説いています。

行き過ぎた資本主義を見直し、新しい形で世の中の課題解決をするための政治経済の指針が示されています。

危機に瀕した資本主義

現在の資本主義が機能不全を招いている問題の根っこには、少なくとも次の4つの原因がある。

  1. 内輪でお金を回しあう金融業界
  2. 「株主価値の最大化」に奔走する民間企業
  3. 気候変動危機
  4. 「対処」するだけの政府

いずれの場合にも組織の構造や組織同士の関係性が問題の一部にある。従って、その立て直しが解決策の一部になる。

 

変革を起こすには、全く新しい見方で問題を見る必要がある。全力で政府の役割を見直さなければ、経済全体の改善は促せない。なぜなら、経済組織の統治のし方や関係構築のやり方、経済主体と市民社会の関わり方をつくり直せるほどに、大規模な変革を導く力を持っているのは政府だけだからだ。政府と企業の両方が新たな存在意義を掲げて、新しい形で協働することが求められる。

 

政府と企業のあり方を変えよ

感染症の世界的流行、地球温暖化、デジタル技術へのアクセスの不平等がもたらす学習機会と成果の格差。こうした厄介な問題は、テクノロジーのイノベーションだけでなく、社会と組織と政治のイノベーションがなければ解決できない。

こうした問題にただ「対処」するだけではなく、本当に解決しようと思えば、結果を出すための政策立案に力を入れなければならない。そのためには、官民が真の意味で協力しながら解決策に向けて投資を実行し、長期的な視点を持ち、公共の利益が確実に担保できるようその過程を管理することが必要になる。

 

巷では、「政府機関はイノベーションなど起こせないガタのきたお役所組織だ」という見方が一般的だ。政府の力をバカにして民営化を推し進めてきたために、政府機能の多くが民間に委託され、間違った効率性が導入された。政府機能への投資が減ったことで、制度の記憶は失われ、コンサルティング会社への依存が高まり、政府の能力が失われた。

正しい道に戻るには、経済の中で政府が果たすべき役割は何かを問い、そのために必要な手段、仕組み、能力は何なのかを改めて自問しなければならない。

 

大規模な改革の実現に必要なのは、これまでにない政治経済の筋書きであり、新しい共有言語だ。その土台になるのは、公共の「パーパス(目的)」が政策や企業活動を主導するという考え方である。そこには志が欠かせない。

このような従来とは異なるやり方を「ミッション志向」アプローチと呼ぶ。それは、経済のゆくえを決め、そこに到達するために解決しなければならない課題を中心に据えて経済システムを設計するということだ。つまり、企業と市民の両方を巻き込みながら、経済における様々な参加者の間で、投資、イノベーション、コラボレーションを促す政策を設計することだ。

これは、今の資本主義を変えるということであり、政府のあり方、ビジネスのあり方、そして官と民の組織の関係性を変えることに他ならない。「パーパス」という概念によって、組織の統治構造や組織間の関係を導くことが、ミッション志向アプローチの鍵になる。

 

政府主導の新しい経済7つの柱

理想は政府の大志がきっかけとなり社会全体に化学反応が起きることである。企業のよきパートナーになることも政府の大切な役割の1つだ。そうやって政府が主導して社会課題を解決するための変化を促し、その実現に手を貸す企業に明確なご褒美を提供し、民間企業が敬遠しがちなハイリスクの初期投資を自ら行うことが重要だ。

 

新しい政治主導の経済とは、政府が市場を修正するだけではなく、市場を共創し、形づくることが土台にある。そのためには、価値創造の考え方を変え、全員参加の取り組みとして価値創造を認識しなければならない。

ミッション志向のアプローチを導く、優れた政治主導の経済には、7つの重要な柱がある。これら7つが揃って、政治主導の新しい経済を生み出すことができる。

 

①価値に対する新しい姿勢と全員参加の価値創造のプロセス

まずは、全員参加の価値創造とは何か、公共のパーパスは何かを定義し、それに従って価値創造の方向を決め、生まれた価値をどう分け合うのかを決めなければならない。

 

②市場と市場形成

平等な競争環境の確保というこれまでの政府の役目を離れて、市場の方向性を共創し、競争環境をその方向に誘導する。

 

③組織と組織変革

皆と共通の目的を追求するなら、競争ではなく協働の能力が必要になる。

 

④金融と長期的な資金調達

社会的な目標のために経済を動かすには、「予算」の考え方を変えなくてはならない。まず「何を成すことが必要か」という問いから始めて、次に「その費用をどう捻出するか」を問わなければならない。

 

⑤分配とインクルーシブな成長

社会のためになるような正しい条件をつけて価値創造と市場形成を行うことで、創造された価値を分配するだけでなく創造前に分配して格差問題に対処することもできる。

 

⑥官民協働とステークホルダーの価値

全員参加の価値創造を重視するということは、企業と政府のコラボレーションの仕組みが重要になる。NASAと民間企業との協力例は、今の時代のパートナーシップのお手本になる。

 

⑦参加と共創の仕組み

皆で価値を創造するには、これまでにない参加の形をつくらなくてはならない。そのためには、様々な声と経験が集まる市民集会のような新しい分散型の仕組みが必要だ。

参考文献・紹介書籍