ハーバードの美意識を磨く授業

発刊
2021年11月26日
ページ数
336ページ
読了目安
482分
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推薦者

美意識の磨き方
LVMHモエヘネシー・ルイヴィトンの北米部門の社長を務めた著者が、「美意識」をビジネスに活かすことの意味や、美的感性の鍛え方を紹介している一冊。人が感覚や感情によって、モノやサービスを選ぶという本質的なことを説明しながら、様々なブランドの事例を紹介。ブランドを構築するために必要なこと、マーケターにとって必要なことが書かれています。

なぜ「美意識」が必要なのか

「美意識」という言葉が意味するところを深く捉えれば、単に「見た目の優雅さ」にとどまらない。「美意識」とは、人が自らの感覚を通じて対象や経験を理解し、知覚することで得られる喜びや満足感のことだ。そして、「美的知性」とは、ある物事や経験から引き起こされた感覚・感情に気づき、それを洞察力をもって解釈し、わかりやすく表現する能力のことだ。

 

美意識に支えられたビジネスであれば、消費者が「喜んで買いたい」と思うような製品やサービスを提供できる。消費者は、そうした製品やサービスの「利便性」に対してではなく、見た目、味、香り、音、手触りといった「感覚上の満足」に対して、快く高い料金を支払うだろう。美意識が感じられる商品やサービスでは、どんな経験ができるのか、どんな風に生活や人生が向上するのか、思い出深い経験になるのか、といったことに移っていく。

「物」ではなく、変化に富んだより意義のある「経験」が求められる世界、そして人々がどんなものを望んでいるのかを的確につかむことが、かつてないほど市場支配力に直結する世界では、企業の製品やサービスに美意識があるか否かが、企業が長期にわたり成功を収められるか否かを左右する決定的な要因となる。

 

美意識をビジネスに生かしていくために、企業の幹部は自身の美的感性や価値観のみならず、顧客の美的感性と波長を合わせなくてはならない。あらゆる分野において、何がその製品や経験に特別な価値を与えているのか、その違いを識別する能力を理解し、その能力を用いるのを学ぶことが美的知性を磨く第一歩だ。実践していくうちに、美意識は研ぎ澄まされていく。

 

五感が基本となる

研究によれば、購入の意思決定の85%を占めるのは感情や感覚だという。しかし、多くのマーケターは、残りの15%の部分、つまり製品の仕様や機能性の評価にばかり注目している。

消費者の心を動かすものは何か。それは、とても根本的なもの、例えば、石鹸とリラクゼーション、カシミアと温もり、クラシック音楽と安らぎ、アイスクリームと快楽といった、人と物との感覚的なつながりではないか。「いい買い物ができてよかった」という体験には、美意識を語る時の基本言語となる「五感」が大きく関わっている。

五感の各器官から得られる感覚や知覚は、瞬く間に消え去っていくものだが、そこから生じる感情は長く続く。したがって、マーケターは、顧客が消費体験の際にどのような感覚を抱くかに最大の注意を払わねばならない。

 

味覚、嗅覚、触覚、視覚、聴覚がどのように機能しているかを知ること、つまり五感が互いにどう影響し合い、マーケターがどのように顧客の五感に刺激を与えているかを知ることは、企業が競争優位を確立していくための鍵となる。

 

美意識をどう磨くか

美に対する感性は、生まれながらに備わっているものではなく、時と共に磨かれていくものだ。そして、「品質や美しさの基準」というものは存在する。例えば、ボルドーワインが好きでなくとも、そのボルドーワインが良質か否かの区別はつけられる。良質とはどういうことかを知るにつれ、その真価を深く理解できるようにもなる。時を経るにつれて自身の味覚(審美眼やセンス)がどう変化していくかに注目すると、美に対する感情がどう発展・進化していくかを明白に理解できるようになる。

 

味覚は、感覚神経系と脳の特定の場所によって生まれ、その他の神経機能と同じように、注意を向け、反復し、経験を重ねることでその機能を強め、磨いていくことができる。まず大事なのは根気よく熱心に様々な味を試してみること。味覚を研ぎ澄ますには時間がかかる。また、その過程で様々な影響を受けることもあり、その影響の要因の半分は自分ではコントロールできないものだ。味覚の発達の仕方は、その人の背景だけでなく、家庭の価値観や教育といった環境によっても大きく変わる。

食体験にもっと気を配ることは、良質なものに対する感性を高める過程で最も大切な一歩になる。目に映るもの、聞こえてくる音、漂ってくる香り、手に触れた時の感じ、こうしたことに意識を向けるようにしていくと、感覚的な体験、表現、コード、品揃えがどのように連携しているのか、なぜうまくいく組み合わせもあれば、そうでないものもあるのかがわかってくる。

「食」にもっと意識を向けられるように自分を鍛えることだ。そうすれば、自分がどのように味を感じているのか、そしてそれはなぜなのかがわかり、食体験の幅がもっと広がるだろう。食体験に意識を集中させればさせるほど、その体験を良質なものにする、あるいは悪くする決定的な要因に気づくようになる。

 

あいにく、私たちは五感の感覚が鈍っているだけでなく、五感の感覚が相互にどう関連しているかについて無頓着だ。そして、これは食事に限った話ではなく、すべての感覚的な体験についても同様である。服の着こなしや自分のスタイルについて考えることも同様に、審美眼を養い、美意識を磨いていくことにつながる。