推しエコノミー

発刊
2021年10月14日
ページ数
280ページ
読了目安
381分
推薦ポイント 6P
Amazonで購入する

Amazonで購入する

エンタメの世界における新しいルール
『鬼滅の刃』のようなメガヒットが生まれた背景を解説しながら、今エンタメ業界で起きているメディアやビジネス、ユーザーの変化を考察している一冊。
ライブ配信コンテンツが主流となっていく現在において、これからのエンタメビジネスを考える上で、参考になる内容が盛り込まれています。

テレビ時代の終焉

アニメ製作委員会は、地殻変動の最中にある。テレビアニメと言いながら、その人気の発火点はテレビ放送ではなく、元々のマンガで既に数万人の購入ユーザーが出来上がっていたり、SNSや話題になった商品化、またはデジタルゲームによって人気が高騰するといった事例も散見される。「テレビ」が最初に何万人、何十万人のユーザーを生み出すのは過去の話でしかない。

 

それが顕著になった事例が『鬼滅の刃』である。このアニメ作品の勝因の1つには、これまでのテレビアニメにはなかった流通戦略が寄与している。『鬼滅の刃』は、2019年4月のテレビ放送に向けて全国21チャンネルでの同時配信に踏み切った。さらにはテレビ放送だけでなく、アベマTVからdTV、アマゾンプライムなど14のインターネット配信サイトにも流していった。アニプレックスは「放送・配信はお金を稼ぐところではなく、なるべく面を広くとってユーザーに認知してもらうためのもの」と割り切ったのである。

こうして「短期的な収益最大化」よりも「視聴の最大化」に振り切ったアニプレックスの流通戦略は当たった。放送や配信での収益を捨てたとしても、コミックス、小説、CD、DVD・BD、映画、商品化などで、2020年で1兆円規模の経済圏が形成された。

 

いまやユーザーは必要な商品を、どこでも手近なチャネルで手に入れる時代になったが、テレビの世界ではこうしたメーカー・卸・小売の流通改革が起きずに、いまも大半はユーザーが番組表を見ながら目的買いでそのチャンネルを訪れるか録画しなくては視聴できない状態なのである。50年前はこれが勝ちパターンだったが、今では時代錯誤である。

 

テレビの未来は、お茶の間を使ったライブコンサートである。このリアルな空間デザインを巻き込んだテレビのアドバンテージは、今後数十年にわたって確実に続いていく。テレビ放送・配信は、この「お茶の間劇場」をどう利用するかが試されている。半沢直樹のようなライブ感の演出をするのであれば、テレビ番組はドラマやスポーツ、ニュースなどライブ性の高いコンテンツに特化していく必要があるだろう。またツイートを誘発し、ユーザー自信をメディアとして参画してもらうための仕掛けをコンテンツの内部に仕込む必要もある。

 

21世紀型のオタク経済圏

コンテンツのライブ化によって、競争条件が変わってきている背景には、メディアの変化よりも先んじてユーザーの変化がある。ユーザーは、もはや「消費者」と呼んでいた頃の行動属性を持っていない。彼らはむしろ「表現者」のようにコンテンツとの付き合い方を変えるようになってきた。

 

「推し」は、以前は主に女性の世界だけに閉じていて、例えば宝塚やジャニーズのファンに昔からみられた現象である。舞台演劇で数十人のキャストの中で、まだ若手の特定の俳優・タレントを「推し」として入れ込み、その推しタレントが団体の中でどんどん成長・出世していく様をともに喜び、ともに感動する。

かつて男性オタクは「萌え」を使い、キャラクター・タレントへの愛着を表現していた。しかし、「萌え」は廃れ、それと交代するように「推し」が男性にも広がるようになった。「萌え」のように対象への内的な感情で対する姿勢ではなくなり、「推し」としてキャラ・タレントに活動として何かを与える、一緒に何かをしていくことを重視するようになっている。宝塚やジャニーズファンが昔からやっていたような行為を、男性ファンもまた乃木坂46やNiziUに対して行うようになっていく。

この心理の変化は「家族」との関係が大いに関係している。家族形成が幸せへの道でなくなったことが知れ渡ってしまった現代にあって、その役割からの自由・解放を求める行動だと考えられる。性愛/結婚/出産から隔絶する「恋愛」に近い感覚として「推し」が生まれたのではないか。おひとり様でも幸せでいられる時代に、「推し」は無色透明に人々の感情のスキマに入るようになった。
独身で、恋愛にはあまり興味がなく、でも自分のことは愛している。趣味や好きなことには時間もお金も使うという人々が、この2010年代の「推し」ブームの一番のボリュームゾーンとして育ってきている。

 

無関心層は常にそのコンテンツが「推すに値するか」を図っている。投じた時間・お金に見合った感情的な報酬を得ることができるかを常に推し量るように比較、試しといった回遊行動を続ける。推すことが決まると、あとはファンの一部となって、布教する側に変わる。

クリエイターはファンの熱量を養分として作品を作り続け、ファンはクリエイターを追いかけ、いつか自分もクリエイターになりたいと願う。このファンによる作品関与によって、熱量を上げていき、「運営」していくことによってサービスとしての質を高め続ける。これが21世紀型のファンビジネスの要諦、推しエコノミーの真髄である。