メーカーの仕事

発刊
2021年9月29日
ページ数
268ページ
読了目安
534分
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推薦者

製造業の仕組みがわかる本
製造業で行われている仕事内容の概要を解説している一冊。需要予測、商品開発、在庫管理、生産管理、ロジスティクスという製造業が持つ5つの機能について紹介されており、メーカーの全体像をつかむことができます。
それぞれのパートで詳細を学ぶための書籍リストがついており、メーカーを網羅的に知るためのガイドとして使えます。

メーカーとは

メーカーとは「製造業」を指す。扱う商材は様々で、商材が異なれば、商品の大きさや重さのほか、材料や部品の数も多岐にわたる。一方で、製品やサービスを通じて何らかの便益を消費者へ提供するために、「商品を開発し、製造して、届けるというビジネス構造」は基本的に共通である。

メーカーのビジネスは単純化すると、価値のある「もの」を作って顧客に届けることである。このものと同じく重要なのが「情報」である。情報の流れは大きく「商品開発」と「商品供給」という2つに整理できる。

 

メーカービジネスの起点となる情報は、商品を利用する消費者からの情報である。これは消費者が発信しているものとは限らない。消費者の購買行動や、消費者の心理も該当する。メーカーは直接的・間接的にそういった情報を様々な仕組みでセンシングし、それを商品開発に活用する。
消費者にとって価値のある製品・サービスを開発しなければ売れない。また、そのニーズの規模を適切に把握できなければ、実際にどれくらいの量の製品を作ればよいか、サービス提供のための人や設備をどれくらい用意すればいいかがわからない。

 

顧客のニーズを予測する

メーカービジネスにおいて、ニーズとは「欲求が満たされていない度合い」を指す。このニーズにお金の観点が加わると需要という概念になる。あるニーズを満たす商品に対し、いくらまでなら顧客は納得して支払うかという程度のことをWTP(Willingness To Pay)と呼ぶ。メーカービジネスではこの見極め、つまり価格設定が売上や利益を左右する1つの重要な意思決定となる。顧客のニーズを把握するとともに、そのニーズを満たす商品に対するWTPを考慮し、需要の大きさを考えることが重要になる。需要の規模の適切な想定が、メーカーの競争力に直結する。

 

顧客の購買行動と商品供給(原材料が製造され始めてから、顧客が購入する場所に届くまで)の間には数ヶ月〜1年の時間のギャップが生じる。よって、メーカーは商品供給にかかる時間を踏まえた上で、需要を予測しておかなければならない。この機能は需要予測と呼ばれ、メーカービジネスにおいて重要な概念である。

需要予測は「何が」「いつ」「どこで」「いくつ売れるのか」を予測する業務である。メーカービジネスの中では、生産部門とマーケティング部門の間に位置づけられており、多くのメーカーでは商品供給を全体的に管理するSCM(サプライチェーンマネジメント)部門で需要予測を行なっている。

 

需要予測が外れると、品切れや過剰在庫など経営に悪影響を与える事態が発生する。品切れは販売機会の損失を生み、顧客の離脱につながる可能性もある。一方、過剰な在庫が発生すると、その分の在庫管理費がかかる。需要予測の精度を高めることは、メーカービジネスにおいて大変重要である。

 

需要予測の手法は、過去の販売データのない新商品と、発売後の売上動向がわかっている既存商品とで大きく異なる。既存商品の需要予測は、ニーズの変化を予測することと言える。需要は、大きく分けると3つの要素に分解することができ、様々な予測モデルがある。

  • 季節性:周期的に繰り返されるパターン
  • トレンド:水準が変化している方向
  • ノイズ:ランダムな変動

 

ビジネスにおいては高度な予測モデルが必ずしも有効であるとは限らない。業界やその時のビジネス環境など、様々な要因によって最適な予測ロジックは変わる。

 

商品を生み出す

商品開発は、商品のコンセプトや顧客層を決めるマーケティング部門、顧客のニーズを満たす技術を開発する研究部門、商品を大量に生産する製造部門などで連携して行われる。このコミュニケーションを効率的に進めるために知っておくべき原則が次の4つである。

 

①開発チームは、顧客にとって魅力的であり、かつ現実に生産できる設計にする。

②商品は、設計を明確にし、品質検査をクリアするまで、改良を繰り返す。

③試作品を作り進化を目指す。

④決まったやり方ではなく、工夫が重要

 

商品は顧客にとって魅力的であることが必要である。それは機能的な側面だけではない。例えば高価格帯の化粧品では、情緒的な価値も重要である。その商品を使用した時の感情や、商品を所有することによる気持ちの変化など、心理的な魅力も備えた商品でないと、多くの消費者に求められない。メーカーとしては、それを大量に、かつ安定して生産できなければならない。

商品開発に使えるリソースには限りがあるため、有望な商品開発に絞り込み、時には開発をやめる決断も必要になる。

 

商品開発は大きく4つのステージに沿って進んでいく。

①チャンスの定義:商品を通じて満たすべき顧客のニーズを明確にする。

②コンセプト設計:顧客のニーズを満たすと同時に、予算やスケジュールの中で実現できる必要がある。

③ディテール構築:基本的に複数の部品・原料からなるが、それらの構築と評価を行う。

④商品改良:商品全体の改良、大量生産の観点からの改良、発売後の改良の3種類を行う。

 

ヒットする新商品とそれ以外では、①と②にかけるコストや時間が2倍程度異なるという調査結果もある。このため商品開発の初期ステージにおいて、しっかりと顧客ニーズを考え、それに対応する自社の技術の評価もしておくことが重要である。