日本の美意識で世界初に挑む

発刊
2021年9月15日
ページ数
264ページ
読了目安
285分
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美意識こそがこれからの時代に求められる
創業300年以上続く西陣織の老舗12代目が、伝統技術を活かしながら、海外展開をしている活動を紹介。日本独特の「美意識」を鍛え、それを強みに新しいビジネスを創り出していくための考え方を説いています。
モノが溢れ、工業によるものづくりが行き詰まりを見せている現代において、人間の創造性の原点である工芸こそが、新たな時代をつくるヒントになると書いています。

創造性の原点は「美」を追求するところにある

人間の創造性の原点にあるのは、自らの手でより美しいものをつくり出そうとする工芸の思考に他ならない。工芸とは、上手い下手は関係なく、自らの手や身体を使って、美しいものをつくり出したいという、人間が本能的に持っている原始的な欲求に忠実であることである。

 

西陣織は、京都を代表する伝統工芸の1つであり、「細尾」は1688年に京都で創業した西陣織の織屋である。現在、細尾の軸となる事業は、着物や帯のプロデュースと卸売であり、売上全体の8割を占める。残りの2割が海外展開を始め、新しく始めた事業である。ある出会いをきっかけに「HOSOO」ブランドの西陣織が、ディオールの世界100都市100店舗で内装に使われるようになった。さらに今では、シャネル、エルメス、カルティエなどの一流ブランドの世界中の店舗をも飾るようになった。国内では、トヨタの高級車レクサス「LS」の内装にも使われるようになった。
西陣織は職人が丹精を込めて一枚一枚織っていく「作品」であり、それがなければ世界中の人々に感動を与えてきた伝統的な「美」はつくりあげられない。

一方で現代の産業に求められるのは、多くが「工業」の考え方で生まれてきたものである。より美しいものが求められることは確かだが、商品が量産できるラインに乗り、いつでも誰でも、それを手にできるようにしなければビジネスとして成立しづらい。
しかし、そんな「工業」にも限界が来ている。既に日本も市場が成熟し、あらゆるモノが溢れた結果、心から「欲しい」と思えるような商品が生まれにくくなっている。また、大量生産、大量消費に伴う、環境への負荷など、多くの問題が明るみになってきている。そんな世の中で、いくら工業的なアプローチを続けても、魅力的なものは生み出せなくなっているのが現実である。

 

工芸は、人間にとって最も本質的なもの。私たちが豊かで満たされた生活を手に入れようとする際になくてはならない、DNAに組み込まれた行為から生じる。というのも、「工芸」というのは、そもそも人間がその手を使い、自然にあるものを加工して、生活をより良くするものをつくりあげてきたことが土台になっているからである。
食べるものを入れる器をつくろうとする行為から漆器や焼き物が生まれ、身近な木を加工することから木細工が生まれてきた。衣類などは、元々は暖をとるために、獣や木の皮を体にまとうところから始まった。

物事が進化する起爆剤となるものに、人間が本能的に持っている「美」への探究心がある。より美しいものを求めれば求めるほど、人間の手でできることには限界が生じる。だから私たち祖先は、美を求め、進化させるために、自らの身体を拡張しようとして道具や機械を生み出し、それによってテクノロジーが発達していった。

ただ、私たちはそうした「美」を追求し、自らを拡張してきたことを忘れてしまっている。その結果、あらゆる工業製品に魅力がなくなり、日本の製造業の勢いが衰えてしまっている。

 

本来、日本のものづくりは独自の美意識によって発展してきた。日本が再生し、今まで以上に世界から求められる存在になるためには、日本人が育んできた独自の「美意識」と、その表現である工芸の思考をもう一度見直し、創造性のヒントにするべきである。

 

創造と革新を生み出すポイント

創造と革新を発揮するためのポイントは次の3つである。

 

①固定観念の打破

既存の価値観や慣習にとらわれずに、自分の中の「何かをつくりたい」という欲求に忠実に、とにかくやってみることで、世の中に新しいコード(規範・枠組み)が生まれる。

 

②妄想によるイノベーション

通常、スケールの大きいビジョンやアイデアは、固定観念によって捕捉され、撃墜される。しかし妄想は、固定観念による追撃を軽やかにすり抜ける。妄想で大事なのはスケール感である。「こうしたい」「こうなったらいいな」という欲求に忠実に、できるだけ大風呂敷を広げること。そうするからこそ、「ではそのために何をやっていけばいいか」という、妄想を現実に変えるための具体的な行動計画が見えてくる。

 

③美意識の育成

美意識は鍛え、育てることができる。とにかく「これで良い」と止まらずに、美意識をアップデートし続けることが大切である。そのためには、常に新しい世界にあえて飛び込んでいって、自身の感性に新しい経験を掛け合わせ、自分自身を更新し続ける必要がある。物に触れたり、体験したりする。自分がやったことがないこと、新しいことに触れていくということが大事である。

美意識を育てるために、難しく考える必要はない。とにかく物に触れることが大事である。美意識を培う上では、物を画像や情報で知って理解した気になるのではなく、生で見て、本物に触れることが大切である。五感を総動員して体験することが、美意識を磨くことにつながる。

 

固定観念を壊し続けながら、妄想によってビジョンを広げ、自身の美意識を鍛え、育てていく。美を追求する営みである工芸には、これからのビジネス、そしてこれからの時代を考えるためのエッセンスが詰まっている。