生物はなぜ死ぬのか

発刊
2021年4月14日
ページ数
224ページ
読了目安
258分
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生命の生と死の仕組みを解説している生物学入門
生命の誕生から進化の歴史を解説しながら、なぜ生物が死ぬのかという仕組みをわかりやすく説明している一冊。一部の例外の除き、ほとんどの生物にとって、「死」とは進化の過程で獲得したプロセスの1つだとし、その意味を教えてくれます。

ヒトの最大寿命は約115歳か

戦後、日本人の寿命は延びているにもかかわらず、最長の寿命はあまり変化していない。2020年に100歳以上の日本人は8万人を突破し、毎年急速に増え続けているが、115歳を超えた日本人はこれまで11名しかいない。

 

現代人の死に方は「老化」の過程で死ぬ。老化は細胞レベルで起こる不可逆的な「生理現象」で、細胞の機能が徐々に低下し、分裂しなくなり、やがて死に至る。細胞の機能の低下や異常は、がんをはじめ様々な病気を引き起こし、表面上はこれらの病気により死ぬ場合が多いが、大元の原因は免疫細胞の老化による免疫力の低下や、組織の細胞の機能不全によるものである。

 

細胞が分裂を繰り返すとゲノムに変異が蓄積し、がん化リスクが上がる。これを避けるため、免疫機構や老化の仕組みを獲得して、細胞の入れ替えが可能になった。これで若い時のがん化はかなり抑えられるが、それでも55歳くらいが限界で、その年齢くらいからゲノムの傷の蓄積量が限界値を超え始める。異常な細胞の発生数が急増し、それを抑える機能を超え始める。そこからは病気との闘いとなる。進化で獲得した想定(55歳)をはるかに超えて、ヒトは長生きになった。

 

老化のメカニズムはすべて解明されたわけではないが、テロメアの短縮が起こりにくい幹細胞は、DNAに傷がつくことで老化が促され、結果として個体を死に導いているようである。老化が死を引き起こすというのは、生き物の中でも特にヒトに特徴的だが「進化が生き物を作った」とすれば、老化もまた、ヒトが長い歴史の中で「生きるために獲得してきたもの」と言える。

 

生き物が死ななければいけない2つの理由

①食料や生活空間などの不足

天敵が少ない、つまり「食われない」環境で生きている生物でも、逆に数が増えすぎて「食えなくなる」ことはある。この場合、絶滅するくらいの勢いで個体数の減少が起こり、その後、周期的に増えたり減ったりを繰り返すか、あるいは少子化が進み、個体数としては少ない状態で安定し、やがてバランスが取れていく。

 

②多様性のため

生物は、激しく変化する環境の中で存在し続けられる「もの」として、誕生し進化してきた。その生き残りの仕組みは、「変化と選択」である。多様性を確保するように、プログラムされた「もの」であるためである。この性質のおかげで、現在の私たちも含めた多種多様な生物にたどり着いた。

遺伝情報が激しく変化し、多様な「試作品」をつくる戦略である。変わりゆく環境下で生きられる個体や種が必ずいて、それらのおかげで「生命の連続性」が途絶えることなく繋がってきた。そのたくさんの「試作品を作る」ために最も重要となるのは、材料の確保と多様性を生み出す仕組みである。遺伝子の変化が多様性を生み出し、その多様性があるからこそ、死や絶滅によって生物は進化してこられた。

 

死は生命の連続性を支える原動力

生き物にとって死とは、進化、つまり「変化」と「選択」を実現するためにある。「死ぬ」ことで生物は誕生し、進化し、生き残ってくることができた。

化学反応で何か物質ができたとして、そこで反応が止まったら、単なる塊である。それが壊れてまた同じようなものを作り、さらに同じことを繰り返すことで多様さが生まれていく。やがて自ら複製が可能な塊ができるようになり、その中でより効率良く複製できるものが主流となり、その延長線上に「生物」がいる。生き物が生まれるのは偶然だが、死ぬのは必然である。壊れないと次ができない。

つまり、死は生命の連続性を維持する原動力である。「死」は絶対的な悪の存在ではなく、全生物にとって必要なものである。生きている間に子孫を残したか否かは関係ない。生物の長い歴史を振り返れば、子を残さずに一生を終えた生物も数えきれないほど存在する。地球全体で見れば、全ての生物は、ターンオーバーし、生と死が繰り返されて進化し続けている。生まれてきた以上、私たちは次の世代のために死ななければならない。

 

ヒトは感情の生き物である。死は悲しいし、できればその恐怖から逃れたいと思うのは当然である。この恐怖から逃れる方法はない。この恐怖は、ヒトが「共感力」を身につけ、集団を大切にし、他者との繋がりにより生き残ってきた証である。

ヒトによって「死」の恐怖は、「共感」で繋がり、常に幸福感を与えてくれたヒトと絆を喪失する恐怖である。また、自分自身ではなく、共感で繋がったヒトが亡くなった場合も同じである。その悲しみを癒す、別の何かがその喪失感を埋めるまで、悲しみは続く。