経済は「予想外のつながり」で動く 「ネットワーク理論」で読みとく予測不可能な世界のしくみ

発刊
2015年9月4日
ページ数
384ページ
読了目安
622分
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予測不可能な世界のしくみ
予測不可能な経済や社会の動きを「ネットワーク理論」という行動モデルで解説する本。インターネットでつながった21世紀の社会における人々の集団行動を読み解いています。

人は他人の行動や考えを模倣する

社会的ネットワークの中では、人は他の人たちの行動や考えを真似したり模倣したりする。動機は様々だ。人が何事かについて自分なりの意見を持ったとしても、自分よりよくわかっている人から違う意見を聞けば、自分もそれに合わせて意見を変えたりする。あるいは順応したいというだけの理由で、特定の社会的集団の行動を受け入れる人もいるかもしれない。ネットワークの力に支配されると、人はもう独自に行動しなくなり、社会的集団の構成要素として行動するようになる。模倣、つまり周りの人の行動を見て判断し、真似するようになる。

ネットワークを構成する個人の集まりは、大抵、このネットワークという特定のシステムが受けるほとんどの「ショック」に対して安定的である。しかし時々、特定のショックが劇的な効果を持つ事がある。だからネットワークは「脆弱」でもある。特定のネットワーク全体、あるいはほぼ全体にわたって個人の行動が変わる事がある。そのショックが起きる以前に、結果としてどんな影響が及ぶか予測するのは、とても難しい。

 

ポジティブ・リンキング(正のフィードバック)

ほとんどの政策は「人間とは合理的な個人としてインセンティブに反応するものだ」という考えに基づいている。もちろん、大体の場合には、インセンティブは望んだ結果をちゃんともたらす。しかし、ネットワークの影響はインセンティブだけの影響よりかなり大きい。この2つが同方向に作用し「ポジティブ・リンキング」という現象が起きれば、インセンティブによって起きる比較的少人数の行動の変化が、ネットワーク効果によってもっとたくさんの人達に広がる。しかし、政策立案者達がインセンティブを使って起こそうと思っていたのとは異なる行動がネットワークに広まると、インセンティブの力は失ってしまう。

ネットワーク効果が働くと、人は経済学が仮定するのとは全く異なる行動規範に従って動く。経済学の仮定では、人は様々な選択肢や一連の行動について、情報を注意深く収集し、自分の一定の選好に合うように判断を下す。それとは異なり、ネットワーク効果の下では人は他人の行動を模倣する。

 

合理的模倣人という行動モデル

21世紀の世界でもインセンティブはやはり影響を与えているが、もっと重要な役割を果たしているのは、ネットワーク上にいる他のエージェントの行動を「真似する」動きだ。人まねは、現代の世界に適応する上でとても賢明な戦略だ。選択肢の数は膨大、提供される製品やサービスはとても複雑で、評価するのが難しい。そして通信技術が大きく進歩したおかげで、私達はこれまでに比べてはるかに他人の行動や考え、購買行動を観察できるようになった。この行動モデルは、人間の社会・経済システムの特徴を幅広く説明できる。

ネットワーク効果が働いている場合、格差の大きい結果(歪んだ分布)が必ずついてまわる。どんな事に関する選択であっても、ネットワーク効果は選択肢の品質や特徴と、各選択肢が選ばれる相対的な頻度の関係を大幅に弱めてしまう。そして、ネットワーク効果は、何らかの問題に対処しようとする政策立案者が直面する不確実性を高める。しかし、同時に政策立案者の妨げでなく助けになる面もある。ネットワーク効果が強い時、インセンティブを少し変えただけで最終的には劇的な変化が起きる事がある。ネットワークのおかげで政策の効果が強まるのだ。

ある状況にネットワーク効果が働いている事を示すものとして使える経験則がある。ネットワークの構造やタイプがわかれば、政策立案者は特定の行動がエージェントのネットワークに浸透したり連鎖したりするのを、後押ししたり防いだりしようという時のいい指針ができる。