23区格差

発刊
2015年11月7日
ページ数
278ページ
読了目安
307分
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東京の中も格差社会
一人勝ちとも言われる東京で進む「格差」。東京23区の差を様々な指標データから紹介している一冊。

年収が非凡な区・平凡な区

2012年における東京23区の平均所得水準は429万円で、全国平均(321万円)を1.3倍以上も上回っている。東京の所得水準の高さは全国の中でも飛び抜けており、2位の神奈川県(367万円)と比べても約16%の差がある。23区の中で最も所得水準が高いのは港区で1人あたり900万円を超える。以下、千代田、渋谷、中央、文京、目黒、世田谷の順で続き、これら「7強」が高学歴、高職種を合わせた「三高」の区の代表となる。

TOP5
①港区904万円、②千代田区763万円、③渋谷区684万円、④中央区547万円、⑤文京区546万円

WORST5
①足立区323万円、②葛飾区330万円、③北区342万円、④荒川区343万円、⑤江戸川区347万円

トップの港区と最下位の足立区との間には極めて大きな格差が存在する。しかし、足立区は、大阪市(192位)や札幌市(285位)よりも所得水準が高い。これが23区の最下位の実力である。

 

学歴が非凡な区・平凡な区

大卒者の割合は、中心区が上位を独占。高卒者は男女を問わず、東部3区や荒川、墨田に多い。大卒の中心部、短大卒の西部、高卒の東部と、東京には深い学歴階層社会が形成されている。教育に要するコストを考えれば、ある程度、親の所得が高くなければ子の進学を支えられないというのは事実で、大卒者が多い区は、子供の進学率も高い傾向がある。

TOP5
①千代田区53.4%、②港区52.2%、③文京区51.5%、④中央区48.7%、⑤世田谷区47.7%

WORST5
①足立区19.9%、②葛飾区23.6%、③江戸川区24.9%、④荒川区27.2%、⑤墨田区28.4%

 

高級住宅地ができるまで

東京の高級住宅地には、2つの系譜がある。1つは大正の末から昭和の初めにかけて、私鉄の整備に伴って開発された住宅地。田園調布、等々力、上北沢、浜田山などが代表で、そもそも畑の中に造るのだから、敷地も街並もゆったり取る事ができた。

もう1つは中心部の高級住宅地。これらは江戸時代の大名屋敷をルーツとする。代表は「城南五山」。池田山、島津山、御殿山、花房山(以上品川区)、八ツ山(港区)を指す。西郷山(目黒区)、白山(文京区)などもこの系譜に属する。「山」の名が示すように、すべてが高台に位置している。山があれば谷もある。谷底の底地は庶民が暮らす街で、この2つは隣り合わせに存在していた。

しかし今、港区や文京区などでは山も谷も、区内の全域が高級住宅地へと姿を変えた。かつて点として存在していた「三高」の街が、面へと広がっていったのは、地価がもたらした結果だ。谷にあった工場や近隣相手の商店、庶民向けのアパートなどは、高い地価に見合う収益が期待できる高級マンションへと姿を変えていった。そして、このメカニズムがハイスペックな年収や学歴、職業を住人に要求する「三高」の街を創り出していった。

実は「富の郊外化」と対をなす「インナーシティのスラム化」の組合せの方がグローバルスタンダードである。にもかかわらず、東京の中心部は高級住宅地としての地位を保ち続け、そこに「三高」の街が発展していった。その理由の1つが緑だ。緑の豊富さを示す緑被率は次の通り。

①練馬区25.4%、②世田谷区22.9%、③杉並区22.2%、④港区21.8%、⑤千代田区21.0%、⑥渋谷区20.6%。農地の緑を除くと、この6区の緑被率に大きな差はない。東京の中心部には公園の緑よりも街に中に組み込まれた緑が存在する。こうした街並みがステータスを高め、高い地価を生み出す背景を形作っている。もう1つの理由が景観である。坂の存在が景観を一層引き立たせる要素になっており、坂と緑が織りなす空間が、坂下をも巻き込んで「三高」の街を形成していった。