見えない巨人 微生物

発刊
2015年11月2日
ページ数
263ページ
読了目安
335分
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微生物学の入門書
微生物は、食物の発酵や腐敗に関わったり、伝染病を引き起こしたりもする。微生物とは何か、その働きや特徴を紹介する入門書です。

微生物とは

微生物とは、小さくて肉眼では見えない生き物の事である。例えば、大腸菌は長さが約1/1000mm、アルコール酵母は1/100mmくらいの大きさしかない。高等動植物の体は多数の細胞によって作り上げられているが、これらの微生物は細胞1つ1つが独立して生きている。

微生物の研究は、レーウェンフックが顕微鏡を使って、池の中の原生動物や口腔内の細菌を見つけ「微小動物」と名付けた事から始まる。その後、コッホが液体培地を寒天で固めて平にした平板固体培地を使って、混じり合っている種類の違う微生物を別々に単離して純粋培養する技術を完成した。大量の液体培地に植え付けて培養する事によって、同じ親から生まれた何百億という数の「遺伝的に均一な菌の集団」が得られる。純粋培養と言われる、この手法によってその性質が初めて明らかになる。

純粋培養という手法は、有用物質を生産し、あるいは感染症を引き起こす微生物を次々に発見して大きな成功を収めたが、やがて自然環境の中の微生物の多くが、コロニーをつくらず培養もできない事がわかってきた。今では自然界の多様な微生物の種の中で培養できるのは全体の1%とも、それよりはるかに低いとも言われている。

 

微生物は巨大な生き物

大腸菌は、肉エキスなどの入った栄養豊富な培地の中では37℃で20分に1回分裂して、倍々に増えていく。この培地の中で1匹の大腸菌が48時間分裂を続けたら、子孫の大腸菌の全体積は地球の約4000倍になる。もちろん、そんな値に達するはるか手前で培地の栄養分は食べ尽くされて、増殖を続ける事はできなくなってしまうが、この計算は最適な条件の中に置かれた時の一部の単細胞の微生物の増える力が、多細胞の動物や植物に比べてどんなに巨大であるかを教えてくれる。

その小さいサイズに加えて乾燥などに対する強い耐性によって、微生物は地球のほとんどあらゆる場所に拡がっている。陸上の土壌圏や河川、海洋などの水圏は、膨大な量と種の微生物の豊かな住処である。例えば微生物の中でも最小のウイルスの海洋中での数は1mlあたり数億個にのぼり、それは細菌の10〜100倍にあたり、総重量はシロナガスクジラ7500万頭に相当する。約4000㎡の肥沃な畑地の表層15cmの土壌が含んでいる微生物は約2tで、その呼吸による酸素吸収量は人間数万人に相当する。体が小さい微生物の体重当たりの呼吸量は、人間に比べて数百倍と飛び抜けて高いのである。生物の代謝活性は体重の3/4乗に比例する、つまり体重当たりの代謝活性は体重の1/4乗に反比例するという「クライバーの法則」は、象からネズミにとどまらず細菌にまで当てはまる。微生物とは、サイズを小さくする事によって高い代謝活性と増殖能力を手に入れた生き物だといえる。微生物が有用物質の生産者として工業的に利用されるのも、有機物を分解除去する生態系における分解者として重要な役割を果たすのも、この特性が土台になっている。

 

相互作用の環でつながる微生物

大腸菌のような単細胞の微生物でも個体の話は無関係ではない。多くの細菌はばらばらに分散した浮遊細胞の集まりで、1つの体として統一された体制をつくっている多細胞生物の個体とは違うように見える。しかし、様々な細菌の浮遊細胞が仲間同士で信号を伝える化学物質を周りに分泌して、それによって集団として目的にかなった行動を取る事がわかってきた。これまで浮遊細胞としてしか存在しないと思われていた細菌が、自然界では条件によってバイオフィルムと言われる集合体をつくり、その中で協調した振る舞いをする事も認められている。自然界では種類の違う動植物が互いに助け合う共生現象がよく知られているが、それが種の違う微生物の間でも広く起こっている。

参考文献・紹介書籍