福岡市長高島宗一郎の日本を最速で変える方法

発刊
2021年5月27日
ページ数
264ページ
読了目安
253分
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日本が変わらない理由
規制緩和や制度改革で、スタートアップの支援やテクノロジー活用を進める福岡市長が、日本を変えるための方法を紹介している一冊。なぜ、日本が変化に弱く、変われないのかその理由を説き、最速で日本を変えるための方法を提示しています。

日本が変化に弱く、変わらない理由

日本は今、少子高齢化および人口減少とそれに伴う経済力の低下といった構造的な問題から、人手不足や教育問題、所得格差の広がり、エネルギー問題、安全保障、老々介護に至るまで、数多くの課題を抱えている。

また、2020年に始まったコロナ禍は、日本という国がいかに有事対応に弱いかを白日のもとにさらした。国と地方の曖昧な権限と責任、デジタル化の遅れ、外出自粛要請のような中途半端な私権制限や共感の得られない営業補償など、まさに統治機構としての国家の弱点が可視化されてしまった。

 

日本において、有事への対応が遅かったり、変化に時間がかかったりする大きな理由としては、まず、日本の政治や社会が「物事が簡単に決められないシステム」になっていること、人々が軍事関連技術の発達や国による個人情報の管理に対し、抵抗感を抱いていることなどが挙げられる。いずれも、太平洋戦争への反省から、戦後の日本が戦争につながりかねないものを徹底的に排除したことに端を発している。

次に挙げられるのが、システムや製品などに対し、人々が抱く根強い「ゼロリスク神話」である。あらゆる物事に対し「100%の安全を求める」という、この国全体を覆っている空気が、国や行政の動きを鈍らせ、新しいサービスや技術が社会に実装されるのを阻んでいる。

 

また、新しいサービスや技術を社会に実装させていこうとする際、その分野の業界団体など、いわゆる「既得権者」サイドの猛烈な反対を受けることもある。新規参入者の登場は、既得権者にとっては、それまで享受していた利益を失うことにつながりかねないからである。

そして、政治家は特定の業界団体などから選挙を応援してもらったり、物心両面で支援を受けたりしていることが少なくない。新しいサービスや技術が社会で使われるためには、しばしば規制緩和が必要になるが、既得権サイドの業界団体から支援を受けている「族議員」の反対により妨げられることもある。

 

このように世の中、特に政治の世界には教科書には書かれていないような仕組み、ルールがたくさんある。法律や規制、政治の仕組みを知らなければ、ビジネスを成功させるにも、社会を変えるにも、無駄に大きな力が必要となる。

 

政治や行政は経済合理性だけで動かない

ビジネスの世界では、基本的には効率の良さやスピード感が重視され、非効率なもの、無駄なものが淘汰されていくのは必然である。しかし、どんなに優れた製品・サービスを作っても、それを社会に実装させるかどうかを決めるのは、政治や行政である。日本は法治国家であり、個人の生活や企業の活動などを含めた社会全体が、法律や条例になどによって規定、規制されている。

たとえば、便利で画期的な乗り物を開発したとしても、道路交通法や道路運送車両法などにより、公道での走行が許されなければ、展示会場や私有地でしか使うことができず、社会に広まることはない。電波を使用する製品なら電波法に、食品なら食品衛生法に、医薬品なら薬機法に抵触すれば、どんなに優れたものでも、販売することはできない。規制を厳しくしたり、緩めたりするのは政治や行政の役割だが、政治・行政の世界は経済合理性で動いているわけではない。

 

大切なのは、政治・行政の世界での、物事が決まっていく力学を理解することである。目的を最小限のパワーで動かすために、アプローチするポイントを見定め、力を加えなければ、いくら自分で頑張ったつもりになっていても、社会は変わらない。制度の文言ではなく、制度の裏にどういう利害関係者がいるかを知ることが大切である。

 

日本を最速で変える方法

様々な理由によって変化や進化が妨げられている日本を変える鍵は、地方にある。日本は、多様な地方の集まりの総体であり、地域によって個性が全く異なる。特に昨今、これまでなかった新しいビジネスモデルやテクノロジー、サービスが次々に生まれようとしているが、ゼロリスクを求める日本で、こうした新しいチャレンジが全国一律で受け入れられるには、非常に高いハードルがあり、それが日本の大きな弱点だと考えられる。

 

このハードルを最速で突破する方法が、新しいチャレンジを、まずは特定のエリア限定でどんどん行い、成功事例をいち早く可視化していくことである。成功事例があれば、他の多くの自治体が一歩踏み出す上での大きな後押しとなり、その結果、国全体が良い方向へとスピーディーに変わっていくことにつながる。