BAD BLOOD シリコンバレー最大の捏造スキャンダル 全真相

発刊
2021年2月26日
ページ数
416ページ
読了目安
625分
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シリコンバレーの巨大詐欺事件の真相
かつて「1滴の血液から全ての病気が判明する」ことを掲げた血液検査技術のスタートアップ、セラノスが引き起こした捏造事件の真相が書かれた一冊。一時は、次のスティーブ・ジョブズとまで言われ、華々しく注目を浴びていたセラノス創業者が行っていた、捏造の経営実態が書かれています。

偽のデータで欺くスタートアップ

2006年11月17日、革新的な血液検査装置を開発したスタートアップ、セラノスは製薬会社向けの初めての大掛かりな実演をやり遂げた。セラノスの22歳の創業者、エリザベス・ホームズが、巨大製薬会社ノバルティスの経営幹部にセラノスの装置の性能を見せつけた。

これはセラノスにとって重要な転機だった。エリザベス・ホームズがスタンフォード大学の学生寮で思いついたアイデアから始まった創業3年のスタートアップが、巨大多国籍企業に「ぜひ使ってみたい」と思わせる製品を開発するところまで前進したのだ。

 

しかし、「セラノス1.0」と名付けられた血液検査装置は、うまく動かないことがあった。コンピュータ画面に映し出される、血液がカートリッジ内を流れて小さな容器に溜まっていく映像は本物だ。だが結果が得られるか誰にもわからない。だから、うまくいった時の結果を前もって録画しておいて、それを毎回実演の最後に見せていた。これまで案内してきた投資家たちも検査結果が、その場でカートリッジの血液を使って出していると思っていた。ノバルティスの実演でも問題などないふりをして、偽の結果を使った。

 

セラノスは、第3ラウンドの資金調達を終えた。誰がどう見ても会心の成功だ。最初の2度のラウンドで調達した1,500万ドルに加え、3,200万ドルもの大金を投資家から集めた。セラノスの評価額は、創業3年で1億6,500万ドルになった。この高い企業価値の大きな源泉となっていたのが、セラノスが提携先の製薬会社と結んだと盛んにふれ回っていた契約だ。あるスライド資料には5社との6件の契約がずらりと列挙され、今後18ヶ月間でそれぞれが1億2,000万ドルから3億ドルもの収益を生み出すという見通しが記されていた。

 

セラノスの理想と現実

血液検査を頻繁に行えるように、カートリッジと読み取り器を患者の家庭に置くのが、エリザベスの夢だった。読み取り器に搭載された携帯アンテナから中央サーバーを経由して、検査結果が患者の担当医のコンピュータに送られる。担当医はそれを見て投与量を素早く調整できるので、患者が採血センターや次の診療で血液検査を受けるまで待つ必要がなくなるというわけだ。セラノスの血液モニタリング技術によって、個々の患者に合わせて薬をきめ細かく調整できる世界がやってくる、とエリザベスは語った。

エリザベスは、ジョブズとアップルを崇拝していた。セラノスの血液検査システムを「医療版iPod」と呼び、セラノスの検査器がアップルの人気製品のように、いつかアメリカの全ての家庭に置かれる日が来ると予言した。

 

一方で、セラノスの検査装置の開発を困難にしていたのが、「ごく少量の血液しか使わない」という、エリザベスのこだわりだった。セラノスの技術は、指先からたった一滴の血液で機能しなくてはならないと、エリザベスは言い張った。
しかし、エリザベスの望むすべてのことを、微細な針を使って皮膚から無痛で採血するシールで行うのは、SFみたいな話だった。火星有人飛行と同じで、理屈では可能でも、実現させるのは並大抵のことではない。

 

さらに問題は、血液検査装置がきちんと動くことを各提携先に証明できるまでは、大きな収益が実現するなどあり得ないことだった。装置の精度を確認するために、全ての契約には「検証段階」と呼ばれる当初の試用期間が設けられていた。この段階で満足のいく結果が得られなければ、どの製薬会社も提携を打ち切ることができた。

 

技術的欠陥を嘘で隠し通す

2009年、エリザベスは消費者向け検査に大きなチャンスがあると語り始めた。ウォルグリーン、セーフウェイという小売業を提携先に迎え、店舗での血液検査サービスを進めた。

 

しかし、セラノスの検査技術は技術的な欠陥を抱えていた。セラノスの主張を科学的に裏付ける論文の査読データもなかった。医学の世界で査読を経ていない重大な発明など1つも思いつかない。

セラノスの検査では完全に健康な人のカリウム値があり得ないほど高く出ることがあった。政府の決めた技能評価の規則も破っていた。法的な責任よりも心配されたのが、患者に危害を及ぼしかねないことだ。血液検査の誤報告から生まれる最悪のシナリオは2つ。もし偽陽性が出ると、患者は必要のない治療を受けさせられる。偽陰性ははるかに悪質だ。深刻な病気が見逃され、死に至ることもある。

 

エリザベスはセラノスをハイテク企業と位置付け、大風呂敷文化を踏襲したばかりか、あらゆる手を使って、どこまでも嘘を隠し通そうとした。

 

捏造スキャンダル

2015年10月15日、ウォール・ストリート・ジャーナルの一面に、衝撃的な記事が掲載された。セラノスがほとんどの検査を他者の従来型検査器で行っていて、技能評価をごまかし、指先穿刺の血液を薄めていることを暴露した上、独自検査器の精度に深刻な疑問を投げかけた。

 

その後、規制当局が立入検査を行い、セラノスの血液検査に深刻な問題があると認め、患者を危険にさらすほど事は重大だと発表した。