生物はなぜ誕生したのか:生命の起源と進化の最新科学

発刊
2016年1月13日
ページ数
448ページ
読了目安
842分
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生命の起源は火星にある!?
生命は火星で誕生し、その後、地球環境の劇的な変化が、幾度もの大量絶滅とそれに続く進化を加速させたとする生命史。現在わかっている科学的な根拠をもとに、生命の誕生の謎と進化の歴史を解説している一冊。

地球の誕生

生命が居住可能な惑星はいくつもあるとしても、現在の地球にいる動物や高等植物のような複雑な生物が進化するには、様々な条件が必要になるという点は決して軽視できない。仮に宇宙に微生物が溢れているとしても、地球の動物のような生物を生むほどの進化が起きる条件を備え、環境の安定した時代が長く続くような惑星は稀である。

地球は誕生してから45億6700万年の間に大きく姿を変えてきた。生命を全く維持できない期間も何度かあったし、動物や高等植物のような複雑な生命が誕生し得なかった時間が歴史の大半を占める。地球上には44億年前から水が存在していた事が確認されている。当時は太陽の活動が今よりはるかに弱かったとはいえ、大気中には十分な量の温室効果ガスが含まれていたので地球が冷える事はなかった。太陽の熱より重要だったのは火山である。火山活動は現在より10倍活発だったと見られている。そのため、最初の10億年間よりはるかに低い温度になるまで、地球は生命を育める環境になかったと指摘される。

 

生命をもたらすために必要な条件

地球の生命を形づくる分子の内、大切なのは液体の水である。生体内に見つかる分子の数は多いが、主なものは4種類しかない。脂質、炭水化物、核酸、タンパク質である。すべて液体に浸っているか、壁となって他の分子と水を囲っているかのどちらかだ。

地球に生命をもたらすために必要なものには4つの段階がある。

 

①アミノ酸やヌクレオチドのような小型の有機分子が生成・集積する。DNAやRNAの背骨部分をつくるリン酸塩も蓄積する事も重要である。
②これらの小型分子がつながり、タンパク質や核酸のような大型分子になる。
③タンパク質と核酸が集まって小滴になり、それが周囲の環境とは異なる化学的性質を帯びる。これが細胞の形成である。
④大型で複雑な分子を複製する能力を獲得し、遺伝の仕組みを確立する。

これらの条件を満たす環境は、最初に生命が誕生した34億年前の地球にはなく、生命は、火星から隕石に載ってやって来たという仮説が唱えられている。

 

生命はどこで生まれたのか

地球最古の生命は、少なくとも34億円前に存在した事が古い化石から示されている。この生命は、現在の地球に生きているある種の細菌と同じだ。これらは海に住んでいて、生きるために硫黄を必要とし、ごくわずかな酸素に触れただけでもすぐに死んでしまったと見られている。この化石生物が生きている環境は、現代よりも気温が大幅に高く、空気はメタン、二酸化炭素、アンモニアという有毒ガスでできていて、硫化水素も含まれていた。その頃は陸地らしい陸地もなく、そうした条件下でその後何十億年も繁栄を続けた。

 

海底の熱水噴出孔とその周辺は、生命誕生の候補地として今なお支持を集めている。最古の生物は、今も熱水噴出孔で見つかるような生物の一種である。生命を生むための化学物質とエネルギーもすべて噴出孔に存在していた。しかも噴出孔は、初期の地球に何十億年もの間降り注いだ小惑星の破壊から守られていた。ところが、この仮説には大きな障害があった。

 

生命誕生において、一番難しいのはRNAをつくる段階である。複雑で大型の分子であるため、非常に壊れやすいからである。RNAの生成は、熱水孔のような高温のもとでは非常に不安定になる。最も古い系統の細菌は65℃の環境で生まれた事がわかる。これは数百℃にもなる熱水噴出孔よりははるかに温度が低い。65℃になるような場所は、今の地球はもちろん37億年前の地球であってもほとんど見当たらない。砂漠を除いては。

 

生命が誕生したとされる初期の地球はほぼ全球が海に覆われていた。水に満ちた世界は生命に不可欠なリボースの形成に適さない。約35億年前までの地球には、生命の誕生に都合のいい場所はおそらくなかっただろう。こうした事から、生命は40億年あまり前に火星で誕生し、その生命が隕石に載って地球にやって来たと唱えられている。火星初期には生命が誕生する原材料が揃っていた。

 

実験の結果、複雑な有機分子はもちろん、休眠期にある微生物であっても、隕石が火星の表面から地球へと移動しても熱で殺菌される事がなく、運び得る事が明確に示されている。45億年前から現在までに、10億トンを超える火星の岩石が地球に飛来した。だとすれば、生命がまず火星で生まれ、それから隕石に載って地球にやって来た可能性は検討に値する重要なものといえる。

 

生命の起源が火星にあるという説を裏付ける1つの証拠がある。RNAが適切に機能するためには、ある程度の長さが必要だが、その長いRNA鎖を得るのは難しい。実験ではばらばらのヌクレオチドを含んだ希釈溶液を凍らせたところ、氷の結晶の縁に沿って多数が結合される事が確認された。当時の地球に氷はない。しかし、火星なら現在と同様に極に大量の氷があったはずだ。