This is Lean 「リソース」にとらわれずチームを変える新時代のリーン・マネジメント

発刊
2021年3月15日
ページ数
262ページ
読了目安
334分
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効率の良い組織をつくるために必要な考え方
組織やチームを効率化するとはどういうことか。従来のリソースの効率化から顧客重視の効率化を行うことが、組織のパフォーマンスを高めるとし、その考え方を示しています。

リソース重視か顧客重視か

効率には次の2種類がある。

 

①リソース効率

組織に付加価値をもたらすリソースを効率的に使うことを重視する。昔ながらの意味で「効率」と言う時には、リソースをできるだけ有効に使うことを意味している。個人や組織の一部、あるいは組織が全体として、同じタスクを何度も繰り返し行うことでリソース効率を高める。リソース効率は、人員、場所、設備、ツール、情報システムなど、製品をつくったりサービスを提供したりするのに欠かせないリソースに重点を置く。

 

②フロー効率

組織内で処理されるユニットを重視する。製造業なら、様々な工程を通じて加工される多数の部品からなる製品がユニットになる。サービス業では顧客がユニットであることが多く、顧客のニーズが様々な活動を通じて満たされることになる。フロー効率は特定の期間にどれぐらいのフローユニットが処理されているのかを知る尺度になる。フロー効率はフローユニットの観点から定義され、その際、フローユニットが価値を得る時間が重要な要素とみなされる。

 

リソース効率とフロー効率のどちらを重視すべきか。効率性としてはリソース効率の方が主流だ。しかし、一方では顧客のニーズを効率的に満たすことも重要だ。リソースの稼働率と顧客の満足度の両方を高めるために、リソース効率とフロー効率の両方が欠かせない。しかし、2つの効率性を高いレベルで維持するのは難しい。

 

フロー効率を高めるのが難しい理由

フロー効率を高めるのは、次の3つの法則から難しい。以下の三法則のおかげで、フローユニットの数、サイクル時間、ボトルネック、変動、リソース効率など、数多くの要素がフロー効率に影響する。

 

①リトルの法則

スループット時間は、プロセス内のフローユニットの数とサイクル時間の2つの要素に影響される。プロセス内のフローユニットの数が増えた場合とサイクル時間が長くなった場合に、スループット時間が延びる。

 

②ボトルネックの法則

プロセス内でサイクル時間の最も長いステージのせいで、プロセス全体のスループット時間が影響される。プロセスにボトルネックが存在する場合、スループット時間が延びる。

 

③変動効果の法則

プロセスには、リソース、フローユニット、外部要因によって必ず変動が生じる。変動は処理時間や到着時間に作用する。プロセスにおける変動が増えた場合、あるいは稼働率が100%に近づけば近づくほど、スループット時間が延びる。

 

高いリソース効率を維持するには、特にプロセスに変動がある場合、処理される順番が来るのを待つフローユニットが欠かせない。仕事がない状態は避けなければならないからだ。しかし、リトルの法則があるため、プロセスにフローユニットが増えれば、フロー効率が下がってしまう。さらに、変動が多いプロセスの場合は、高リソース効率と高フロー効率を両立するのが不可能であることを、変動効果の法則が示している。

 

効率性のパラドックス

リソース効率の高い組織は数多くのネガティブな影響に見舞われる。顧客にだけでなく、会社にも従業員にもネガティブな影響だ。それらは3つの「非効率性の源」から生じる。

 

①長いスループット時間:長いスループット時間は新たな二次ニーズ(別の課題)を生み出す

②多すぎるフローユニット:数多くの事柄を並行処理できず、コントロールを失う

③何度もリスタート:やり直しでは、頭のリセットに時間がかかり、効率が落ちる

 

リソース効率を重視しすぎるとフロー効率が下がる。その際、顧客のニーズが複数の小さなステップに分割され、様々な個人や組織部門によって満たされることになる。いわば効率性の孤島がいくつもでき、全体を見渡すことができなくなる。こうして、プロセス全体で二次ニーズが生じ、余計な仕事が増える。

 

パラドックスを解く鍵をとなるのが、フロー効率の重視だ。フロー効率に意識を向けることで、組織はフロー効率の低さから生じる数々の二次ニーズをなくすことができる。そのための戦略の1つが「リーン」と呼ばれる考え方である。

 

効率性マトリックス

①高リソース効率 × 高フロー効率 = 完璧な状態

②高リソース効率 × 低フロー効率 = 効率的な孤島

③低リソース効率 × 高フロー効率 = 効率性の海

④低リソース効率 × 低フロー効率 = 荒野

 

完璧な状態に到達するのは、需要(顧客のニーズ)の完璧な予測が必要となるため不可能である。しかし、組織は効率性マトリックスのどこに陣取りたいかを選ぶことができる。どう動くかを選ぶことができる。この立ち位置を決める重要な要素が戦略である。

 

リーンとはリソース効率よりもフロー効率を優先するオペレーション戦略である。リーンは効率性マトリックスの右上に向かって移動するための戦略なのである。フロー効率とリソース効率の選択では、迷いなくフロー効率を優先する。そして、フロー効率に集中することで、組織は余計な仕事や無駄の多くを減らすことができる。