スミス先生の道徳の授業 ―アダム・スミスが経済学よりも伝えたかったこと

発刊
2016年2月25日
ページ数
288ページ
読了目安
342分
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幸福になるにはどうすればいいのか
アダム・スミスの書いた『道徳感情論』をわかりやすく解説している本。人が幸福になるためにはどうすれば良いのか、18世紀も変わらない人間の本性について書かれた一冊。

スミス先生の教え

アダム・スミスは、友情、善行、富の追求、幸福の希求といったものを丹念に観察して『道徳感情論』を書き上げ、よき人生とは何か、どうすればよき人生を送る事ができるのかを説いている。『道徳感情論』は当時としては大成功を収めたが、今日ではこの本はほとんど忘れられている。アダム・スミスの評判を高めたのは、もっぱら二冊目の著作『国富論』だ。

アダム・スミスは元祖・資本主義の一人であって、国が富み栄える理由を論じた最も有名で優れた本を書いた学者であるにもかかわらず、『道徳感情論』では誰よりも熱心に、幸福になろうとして富を追求する事の空しさを雄弁に語っている。アダム・スミスは、人間が過度の物欲に囚われがちである事だけでなく、自己欺瞞に陥りやすいこと、得てして善意からよからぬ結果を招きがちであること、名声や権力に眩惑されやすいこと、理性が十分に強くないことを理解していた。

『道徳感情論』を読むと、善や徳だとか人生の意味だとか人間の振る舞いといったものが18世紀からほとんど変わっていない事に気づく。

 

自分を知るには

『国富論』には人間は基本的に自己利益を追求するという事が書かれている。だが全員が自己利益の追求に熱心だったら、なぜ隣人や他人は助けてくれるのだろうか。スミス先生の答は単純明快だ。私を助ける事に何かしら利益があれば、助けてくれる。隣人の助けに対して私が何かを返すこと、即ち取引の存在が分業の条件である。相手の事に気を配るのは、相手に何かしてもらいたい時に大切である。

しかし、人間は何も得るものがなくとも、他人のために行動する事がある。これに対して、スミス先生は、人間は「中立な観察者」との想像上のやりとりを通じて、どう行動するかを決めているからだと答える。中立な観察者は、自分から抜け出して、他者の目で自分の行為を吟味する。人は、他人から是認される、是認されないという経験を通じて倫理観を養っていく。そうした経験を積む内に、公平な判断を下す中立な観察者をおのずと想像できるようになる。人生をより良いものにしたいなら、中立な観察者にいつも注意を払い、ちゃんと気配りをしなければならない。そうすれば、本当に大切な事は何かが見えてくる。

 

幸福になるには

人は、他人から評価され、称賛され、望まれ、大切にされたいと願う。自分に注意を払い、重んじて欲しいと願う。これが人間の本性なのだとスミス先生は言う。自分という人間が人々に愛されていると感じる時、人は幸福になる。真に高潔で誠実な尊敬すべき人間になる事によって正当に他人の評価を勝ち得た時、人は幸福になるという訳だ。

スミス先生が理想とするのは、内なる自分と外から見える自分とが完全に一致する事である。だが、この理想に届く人はめったにいない。人間は、自分は愛されるに値する人間だと信じたいあまり、自分で自分を騙す事がある。

 

自分を騙さずに生きるには

私達は、自分は愛すべき人間でありたいという思いが強すぎ、実際以上に愛すべき人間だと思い込んでいる。このため自分の行動を正す事ができない。自己欺瞞の力によって、なりたい自分になっていると信じ込む。こうした状況に陥るのを防ぐ1つの方法は、メンターになってくれる人を見つけること。即ち、現実の生活における真に中立な観察者を見つける事だ。

 

愛されるには

愛されるには、あるいは尊敬され称賛されるには、2つの方法がある。1つは富と名声を手に入れること。もう1つは知恵と徳を身に付ける事だ。第二の道を選びなさいと、スミス先生は忠告する。

中立な観察者がいつも見ている事を忘れずに行動しなさい。自分自身を外から見つめ、他人が見るように自分を見るよう努めなさい。中立な観察者の目で自分を知るように努力しなさい。お金や名声の誘惑は避ける事だ。それらに満足する事は決してないのだからと。