我々は生命を創れるのか 合成生物学が生みだしつつあるもの

発刊
2019年8月22日
ページ数
320ページ
読了目安
440分
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人工生命を創り出す研究の最前線
我々は人工生命を創り出すことはできるのか。人工細胞を作るのに必要な仕組みと研究の最前線をわかりやすく紹介している一冊。

生命の材料

生命を構成している重要な物質の代表は、量的に多い順番から、水、タンパク質、核酸(DNAとRNA)である。大腸菌の場合、水は全体の70%、タンパク質は15%、核酸が7%を占めており、これだけで92%。あとは脂質や炭水化物などが続く。これは人間など他の生物でもほぼ同じだ。

地球上の水の起源も、誕生時から既にあったという説と、後から彗星や小惑星に運ばれてきたとする説などあるが、いずれにしても生命が生まれる時には存在したとする。問題はタンパク質と核酸だ。2つとも炭素を含む有機物(有機化合物)であり、分子量の非常に多い高分子(高分子化合物)である。簡単には生まれない。

タンパク質はアミノ酸からできている。生物が使っているアミノ酸は20種類で、それらが鎖のように数十から数百も繋がっている。数個程度繋がったものは「ペプチド」と呼ばれ、タンパク質とは区別されることが多い。一方の核酸は「ヌクレオチド」という単位分子が、やはり鎖のように数百から一億以上も繋がってできている。そのヌクレオチドは「ヌクレオシド」という単位分子と「リン酸」からできている。ヌクレオチドは「核酸塩基」と「糖」からできている。

生命の起源は陸か海か

生命の材料はどこで組み立てられたのか。「海底(熱水噴出域)説」と「陸上(温泉地帯)説」の両方があり、それぞれメリットとデメリットがある。

生命の起源は「点」でとらえる場合と「線」や「面」でとらえる場合とがある。ミクロの視点では、熱水噴出域にも温泉地帯にも様々な環境がある。「生命はどこで生まれたか」といっても、どこに視点を置くかによって、議論は変わってくる。点と線のどちらでとらえるのが正しいかは今のところわかっていない。

生命0.9

合成生物学とは、生物そのものを人工的に作り出そうとする学問だ。地球の40億年前の状況がどうだったかを念頭に置きつつも、今ある材料や道具を使って、生物(的なもの)全体やその一部をつくり、できてしまったら、改めてその意味を過去に遡って考える。

タンパク質は非常に高分子だ。多少とも生命が関わることなく、いきなり地球上に誕生した可能性は低い。比較的、小さな分子でできた単純な油滴から始まって、それが物理化学的な反応で動いたり、分裂したり、履歴を残したりしているうちに、複雑な液晶滴やベクシル(リン脂質が二重に並んで袋状の膜となったもの)になっていった。そしてペプチドやヌクレオチドなどが現れた時に「ボディ」となるベクシルなどに取り込まれていったのではないか。

陸上の温泉地帯や干潟などに、脂質が溶けている水たまりのような窪みがあったとして、それが自然に干上がっていく過程で脂質は濃縮され、最終的にはミルフィーユ状となって底に溜まる。また雨が降ったりして、窪みに水が溜まるとミルフィーユ状の脂質がベクシルになる。この時、周囲にたまたまRNAっぽいものが転がっていたら、それを取り込んで「RNA生物」誕生の引き金になったりするかもしれない。

人工細胞を限りなく本物に近づけるには、ベクシルの中で、タンパク質を作らせる必要がある。現在、地球上のすべての生物が持っている働きに「セントラル・ドグマ(中心原理)」がある。細胞がタンパク質を作る際、核のDNAに書かれている遺伝情報をmRNAに写し取り、そのmRNAの情報をタンパク質に反映させる仕組みだ。また、細胞が分裂する時にはDNAの複製も行われる。人工的なセントラル・ドグマを人工的な細胞膜であるベクシルの中に入れると、生きた細胞と同じように、ベクシルの中でタンパク質ができることが確認された。

この段階では、細胞は外から栄養を取り込めない。そこで人工細胞に、タンパク質の一種バクロドとATP合成酵素を組み込んで、光合成をさせる。膜があり、DNAからタンパク質をつくり、光合成もする人工細胞。最後の大きなハードルは、分裂し、増殖することだ。だがそれも方向性は決まっている。

参考文献・紹介書籍