マインド・コントロール

発刊
2016年4月20日
ページ数
287ページ
読了目安
347分
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推薦者

テロリストを生み出す方法
なぜ、テロ組織やカルト宗教にはまる人がいるのか。洗脳を受けやすい人の特徴と、洗脳されるまでプロセスを解説している一冊。マインド・コントロールの仕組みが理解できます。

テロリストにはエリートも多い

テロリスト達は、生きる事が困難で将来にも期待のもてない貧困層の出身者よりも、むしろ裕福で恵まれたエリート階級の出身者に多く、高学歴で、医師やエンジニアなどの専門技能を必要とする職業に就いていた。社会の少数はに属し、疎外感を味わっていたというケースもあるが、実際にひどい迫害や屈辱的な体験を受け、復習を望んでいたケースはむしろ稀であった。

また、一般に思い込まれていたほど、洗脳によって操り人形のような状態になっていた訳でもなかった。彼らの多くはむしろ理性的な人物で、自分がテロ行為を決意するに至った経緯を理路整然と説明し、納得の上でそうした事を決行した事を話した。

自爆テロを行うテロリストの場合、テロ組織のスカウトから勧誘を受けて自爆テロリストになったというよりも、大部分のケースは自ら組織に接近した事が明らかになっている。テロリストの仲間入りをする事は、むしろ特別なものだけに許される名誉なのである。

 

テロリストになる人に共通する特徴

どういう人がテロリストになるのかについて、共通する特徴が見出された。

①理想主義的で、純粋な傾向を備えている
②社会でうまくやっているように見えても実際には苦痛や困難、不信感を感じている

社会の主流派に属し、何不自由なく大きくなり、エリートの道を歩んでいたにしろ、マイノリティとして、幼い頃から社会の矛盾を味わっていたにしろ、彼らはどこかの時点で挫折や疎外感を味わい、自己の存在価値やアイデンティティを脅かされていた。彼らの純粋さと理想の高さが、面白くない現実と折り合いをつける事を難しくしたと考えられる。社会において自分の価値を認められず、アイデンティティを見出せないものは、社会の一般的な価値観に刃向う事で、自己の価値を保とうとする。こうしたカウンター・アイデンティティは、社会から見捨てられたものにとって、自分の人生を逆転させ、自分の価値を取り戻すような歓喜と救いの源泉ともなる。

 

テロリストを生み出すプロセス

テロリストになるまでには、共通したプロセスがあった。このプロセスは「トンネル」に喩えられる。そのトンネルを通り過ぎる内に、普通の理性的な人間が、テロリストに生まれ変わってしまう。トンネルは、細く長い管状の通り道で、外界から完全に遮断されている。入口を入れば、後は出口まで光はない。その要素は2つ。

①外部の世界から遮断する
②視野を小さな一点に集中させ、視野狭窄を生じさせる

小集団との排他的な関係がまず用意される。そこでほとんどの時間を共に過ごし、それ以外の生活や外部からの情報の流入を可能な限りシャットアウトする。そうする事で、そこでの生活がすべての基準となっていく。小さな集団を支配しているルールや価値観に、いつのまにか支配されるようになる。

一旦テロを決意しても、人間なので怖気づいたり、死ぬのが怖くなる事もある。そうした後戻りが起きないための仕掛けも施される。その1つが、テロを実行する前から、その人を「英雄」として扱う事である。家族も英雄を生み出した一家として栄誉と経済的優遇を受け、逃げ場をなくす。

 

同じ仕組みは社会に溢れている

こうした「トンネル」は、危険な目的に利用されるだけでなく、世間的には健全と思われている目的にも頻用されている。スポーツチーム、クラブ、進学塾など、そこではある種の視野狭窄を生み出し、それだけを成し遂げる事に夢中になって突き進ませる。

「トンネル」は、教育や訓練の方法として、効率的で強力なものだが、それは他の多くのものを犠牲にする事にもなる。目的が達成できないと、自暴自棄になる事もある。また、あまりにも長い時間をトンネルの中で過ごす事によって、他の世界とのズレを生じ、それ以外の世界に適応できなくなる場合もある。

 

マインド・コントロール5つの原理

①情報入力を制限する、または過剰にする
外界から隔離し、外部の人と話のできない孤絶した状態に置く事は洗脳の基本である。目的とする一点にだけ関心を集中させ、それ以外の事を考えなくさせ、その一点に向かって進んでいくしかないように仕向けていく。情報や刺激に対する飢餓状態におき、抵抗力を奪った上で、教化や思想修正の時間だけが、魅力的で人間的な刺激となるように与えられる。

 

②脳を慢性疲労状態におき、考える余力を奪う
過剰な情報を負荷して、処理能力をオーバーした状態を作り出す。同時に脳の処理能力自体を低下させれば、主体的な判断能力を奪う事がいっそう容易になる。洗脳においては、脳を絶えずビジーな状態に置くと共に疲労困憊させる方法が徹底して取られる。まず頻用されるのは、睡眠時間を奪い、その質を劣悪なものにするという事である。睡眠不足と疲労と強い不安が何日も続くと、どんなに強い意志をもった人物も次第に心理的抵抗力を失っていく。

 

③確信をもって救済や不朽の意味を約束する
欠乏と不安の極限状態に置いて、精神的な抵抗力や批判的に考える力を奪った上で、あなたにも救われる道があると語りかける。我々の仲間になって信念を同じくすれば、素晴らしい意味を持つ人生が始まると、希望を約束する。

 

④人は愛される事を望み、裏切られる事を恐れる
群れで生活するのが基本である人間は、一旦仲間だと認めたものに対して、忠誠を尽くすという本性を持っている。マインド・コントロールしようとする者は、仲間である事を強調したり、親しみを演出しようとする。愛情や共感のポーズを積極的に示そうとする。

 

⑤自己判断を許さず、依存状態に置き続ける
自分で考えたり決定したりする事を極力排除し、支配する者だけが意思決定を行い、本人はただそれに従う。支配的なカルトの場合、メンバーの上には、メンターとなる先輩信者がいて、些細な事もすべて相談する事が求められる。人生の意思決定のすべてが、自分以外の存在の手に委ねられる事になる。

参考文献・紹介書籍