ゲノム編集の衝撃―「神の領域」に迫るテクノロジー

発刊
2016年7月23日
ページ数
224ページ
読了目安
270分
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推薦者

遺伝子を自由に操作する技術とは
遺伝子を自由に操作する技術の開発が急速に進んでいる。医療や品種改良などの分野で注目されている革新的な技術「ゲノム編集」について紹介されている本。

従来の遺伝子組み換え技術の限界

遺伝子は、私たちを作るための指示書のようなものである。この1つの生物が持っている全ての遺伝情報が「ゲノム」と呼ばれている。ゲノム編集は、このゲノムを編集して「遺伝子の情報を変えることができる」技術である。

「遺伝子の情報を変える」と聞いて、思いつくのは「遺伝子組み換え技術」ではないか。遺伝子組み換えは、外から別の遺伝子を組み込むことで、生物の性質を変えることができる技術である。動物の遺伝子に植物の遺伝子を組み込むなど、違う生物の遺伝子を入れ込むことができる。アメリカの食品医薬品局は遺伝子組み換えダイズやトウモロコシのほか、最近では遺伝子組み換えによって作り出された、早く成長するサケを食用に販売することを認めている。

品種改良を行う時に問題となるのは時間である。ただ変異原(化学物質や放射性物質)を使っただけでは、何万もある膨大な遺伝子のうち、どの部分の遺伝子が壊れるのかはわからない。狙った遺伝子を壊すためには偶然に頼るしかなかった。遺伝子組み換え技術を使った場合でも、何千回、何万回と実験を繰り返し、偶然に狙い通りの場所に入って遺伝子が働くのを待つしかなかった。

 

ゲノム編集とは

ゲノム編集は「これまでよりもはるかに高い確率で狙った通りの遺伝子を壊すことができる技術」である。生物の遺伝子は、4種類の「塩基」と呼ばれる物質の組み合わせが情報を担っている。細胞の中には塩基と結合する性質を持つ物質がある。この性質を応用した技術こそ、ゲノム編集である。

編集したい遺伝子と結びつく物質を細胞の中に送り込み、目的の遺伝子と結合させる。送り込んだ物質には、遺伝子を切ることができる「はさみ」の役割を果たす物質も連結させてある。物質が編集したい遺伝子と結合すると、はさみが動き、遺伝子を切断。切断された遺伝子は壊れるという仕組みである。この仕組みを使えば、品種改良などの時間が1/100くらいに短縮される。

 

ゲノム編集の技術『クリスパー・キャス9』

狙った遺伝子だけを壊すということは、これまでとても難しいものだった。ゲノム編集が大きく注目されるようになったのは、「クリスパー・キャス9」という技術が開発されたからである。

細菌には「クリスパー」と呼ばれるDNAの配列が存在する。クリスパーには、特徴的な繰り返し配列があり、ウイルスなどのDNAの一部が取り込まれていることがわかった。これは過去に感染したウイルスなどの遺伝子断片で、同じウイルスなどから再び感染が起きた時に、その配列を目印に「キャス9」という酵素を使って、ウイルスのDNAを切断して感染を防いでいることがわかった。この機能をベースに、人工的に狙ったDNA配列を切断する道具が開発された。この技術では、狙った場所に遺伝子を加えることもできる。クリスパー・キャス9と一緒に、新たに導入したいDNA断片を入れれば、切断した遺伝子の箇所で修復を試みる過程で、そのDNA断片を取り込んでしまう。まさに、遺伝子を切ったり、別の遺伝子をつなげたりと編集できるようになったのである。

クリスパー・キャス9を中心としたゲノム編集の技術は、ほぼすべての生物で使えると考えられている。細菌やウイルスでもゲノム編集が可能であることがわかっている。どのケースでも前提となるのは、DNAの塩基配列がわかっていることである。その配列さえわかっていればゲノム編集ができる。

一方で課題もある。ゲノム編集は狙った遺伝子だけをターゲットにするが、厳密に分析していくと、完全に1つの遺伝子だけをターゲットにしないケースがあることもわかっている。「オフターゲット作用」と呼ばれる現象で、狙った遺伝子以外を改変した場合は、思わぬ影響がでる可能性がある。今後、医療への応用や、食品としての安全性を議論する際に、このオフターゲット作用は避けて通れない問題となるだろう。