B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史

発刊
2021年1月14日
ページ数
272ページ
読了目安
313分
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Bリーグはなぜ成功できたのか
かつてトップリーグが、NBLとbjリーグに分立し、バラバラだった日本バスケ界。様々なハードルを越えて、Bリーグを誕生させるに至った経緯と成功の理由が書かれた一冊。プロスポーツの仕組みを機能させるための教訓と学びが書かれています。

Bリーグの改革

Bリーグは開幕初年度の2016-2017シーズンに全36クラブ合計で224万人の入場者を集め、150億円の売上収入を上げている。旧リーグ時代の合計83億円に比べて2倍近い売上を記録し、非連続的な成長を遂げた。Bリーグは2018-2019シーズンまで右肩上がりの成長を続け、入場者259万人、売上収入221億円と順調な拡大を見せた。

リーグの支援を通して予算と実績の管理といった「経営の基本」がクラブに浸透し、収入と支出のバランスも崩れていない。リーグ1部のB1と2部のB2の36クラブは脱落することなく2020年10月からのシーズンに臨んでいる。Bリーグの発足は大成功だった。

 

Bリーグの発足前、日本バスケ界は、日本バスケットボール協会の運営が混乱し、最高峰のリーグが分裂していた。旧日本リーグからの流れを汲むNBLと別に、2005年に発足したbjリーグがあり、バラバラに戦われていた。分裂の一因には「実業団からプロ」という流れに対するスタンスの違いがあった。

日本バスケットボール協会はコントロールできないトップリーグの存在を許し、FIBA(国際バスケットボール連盟)からはガバナンスの欠如を問題視されていた。2014年にはFIBAの国際資格停止処分を受け、あらゆる国際活動から日本が締め出された時期もある。

そんな大ピンチからの浮上だったからこそ、Bリーグ発足の軌跡は価値がある。

 

Bリーグが成功できた5つの理由

①人材

川淵三郎というリーダーの貢献が大きい。リーグ分立状態からBリーグ創設に至る流れを作った組織が、2015年1月に結成された「ジャパン2024タスクフォース」だ。川淵はその共同議長に指名され、同年5月には日本バスケットボール協会の会長にも就いた。リーグと協会のビジョンを提示し、巧みな発信で社会を巻き込んだ。自治体や腰の重かった大企業に「改革を任せていい」という感覚を持たせ、ソフトバンクのようなパートナーも引き込んだ。

bjリーグの存在はBリーグ発足における壁だった。対リーグ交渉、調整が困難と見て、リーグの規約を確認した上で「クラブを脱退させ第3のリーグに取り込む」スキームを考案し、24クラブの経営者を取り込む多数派工作を成就させた。

 

②外圧

FIBAは男女あらゆるカテゴリーの国際活動を禁止するという、強烈な制裁処分を日本に科した。2015年6月までに問題を解決できなければ、リオデジャネイロ・オリンピックの予選に参加できなくなる切実なタイムリミットがあった。

リーグの分立解消、日本バスケットボール協会の完全な刷新は究極の宿題だった。背後にはFIBAがいる。オリンピック予選を諦める、新リーグに参加しない判断はシンプルに損だった。

 

③ガバナンス

FIBAは日本側にリーグ統合、協会の刷新を求めたが、突き詰めると問題はバスケ界のガバナンスだった。日本バスケットボール協会は決定と実行の機能が不足していた。だからこそリーグの運営が長く混乱し、分立が長引いた。バスケ界には口を出す人は多かったけれど、実際に汗をかく人が少なかった。

FIBAが考えていた日本バスケの改革とは、結論を出しそれを実行する組織の構築だ。だからこそ日本バスケットボール協会側には理事を削減し、口出しを減らして横槍が入りにくくする意思決定プロセスを求めた。

ガバナンスは制度、組織図で片付けられない。ガバナンスとは議論と実行、解決のプロセスだが「ヒトとカネ」が伴わない仕組みは絵に描いた餅だ。財源の増加が、日本バスケ改革の成就した極めて大きな要因だ。放映権、スポンサーセールスといった事業面の成長がガバナンスに寄与している。

 

④プロの存在

日本バスケットボール協会には男女合わせて60万人に及ぶ登録選手がおり、Bリーグ発足前から40を超すプロクラブが活動していた。特にbjリーグにはラグビーやバレーにないプロチームとプロリーグの仕組みがあった。ファンを作り出し地域のスポンサーを呼び込み、収支をとって継続させる形を、bjが全国に広げてきていた。プロがあることで経営者やスタッフ、コーチも育った。Bリーグの成功のベースには、有名無名な人々が2014年以前に重ねた努力があった。

 

⑤ハイブリッド

BリーグにとってJリーグは大きな手本になった。定款や規約、規定はJリーグと極めて近い。理事会、代表権を持ったクラブ経営者が集まる実行委員会、クラブライセンスなどの制度はほぼそのままBリーグに援用されている。

一方でBリーグのビジネスはJリーグと違う発想が入っている。当時IT化、データベースマーケティングで先を行っていたのはプロ野球で、そちらが手本になった。草創期のBリーグでは、プロ野球で経験を積んだ幹部がマーケティングを主導した。リーグが権益を持ってやっていくところはサッカーだが、ビジネスは野球がモデルになった。

 

Bリーグはガバナンス、マーケティングから、チームの独立法人化に代表されるリーグの仕組みに至るまで、プロスポーツの基本を的確に押さえている。