フォーカス

発刊
2015年11月26日
ページ数
368ページ
読了目安
525分
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集中力を鍛えること
あらゆることの成功の鍵は「集中力」であるとし、集中力のメカニズムと、それを鍛える方法を紹介している一冊。

集中力を鍛えることが鍵

どのような課題を遂行する上でも注意力が決め手となる。注意力が妨げられるとパフォーマンスが落ち、注意力が向上するとパフォーマンスが上がる。人生をうまく生きられるかどうかが、この鋭敏な能力にかかっている。注意力は、無数の知的活動に内在している。理解、記憶、学習、自己の感情を分析する能力、他者の感情を読む能力、対人関係を円滑にこなす能力などがある。

集中力は、自己への集中、他者への集中、外界への集中の3つに分類できる。よりよく生きるためには、3つの集中すべてに熟達する事が必要だ。注意力は筋肉と似ていて、あまり使わなければ退化し、鍛えれば向上する。

 

情動によって集中が乱される

集中を乱す要因は、感覚的なものと情動的なものに大別される。感覚的なものは、さほど問題にはならない。例えば、舌が上の口蓋に触れたのを一瞬だけ感じても、すぐに忘れる事ができる。脳は、たえず流れ込んでくる音、形、色、味、におい、感触などのはてしない刺激を取捨選択しているのである。一方で、情動に関わる刺激の方は手ごわい。例えば、恋人との破局のような人生の一大事に見舞われたら、どんなに集中力のある人でも、その事ばかりが頭に浮かんできてしまうだろう。集中が低下すれば、それだけ結果は悪くなる。

集中力を保つには、気を散らす情動的要因を無視する必要がある。集中力の高い人は情動面での動揺を受けにくく、危機的状況にも動じにくく、人生の大波をかぶっても情動麺で落ち着いていられる。

1つの関心事を捨象して次の関心事に映る事ができないと、いつまでも心配ごとの堂々めぐりを続ける事になる。この選択的注意の能力が高ければ高いほど、目の前の活動に没頭できる。

 

意識的に注意を向けることで情動を抑制する

私達の脳は2つの独立したシステムから成り立っている。一方のシステムは大容量の計算能力を備えていて、常に稼働しており、黙って様々な問題を解決する。このシステムは意識の及ばないレベルで働いている。このいわば心の「舞台裏」で働いている注意は、予期せぬ事態が起こった時に、表舞台に登場する。

能動的注意、意志力、意図的選択はトップ・ダウンであり、受動的注意、衝動、自動的習慣はボトム・アップである。人間は、自分が意識的にとらえている世界こそが脳の働きのすべてだと思い込んでいるが、実際には、脳の働きの大部分は舞台裏のボトム・アップのシステムによって処理されている。

ボトム・アップの神経回路は短時間の思考や衝動や即決を好む。一方で、トップ・ダウン回路のおかげで、人間の脳には自己認識、思索、熟考、計画などの能力が備わっている。トップ・ダウンの集中によって、脳を意識的に働かせることが可能になる。

ボトム・アップのシステムとトップ・ダウンのシステムは、最小の努力で最大の結果を得られるように役割を分担しあっている。慣れてルーティンが簡単になってくると、習得した事は脳の「トップ」から「ボトム」へと受け渡される。すると、その課題は次第に注意を払わなくても自動的に実行できるようになっていく。

能動的注意はトップ・ダウンの活動であり、この回路が働いていれば、ぼんやりと事態をやりすごす事はない。無意識にやってしまう癖を見直したり改善する事に可能になる。このような目標に集中した注意は、無思慮な思考を制止し抑制する。

つまり、情動は私達の注意を駆り立てようとするが、意識的な努力によって情動をトップ・ダウンで制御する事も可能なのである。

 

何かに没頭できるようになること

日常生活で「フロー状態」になれる事は、あまり多くない。人間の気分を無作為に調査してみると、ほとんどの時間において人は大抵ストレスまたは退屈を感じていて、ほんのたまにフロー状態を味わうだけだ。フロー状態を一日に一回以上経験する人は、全体の20%しかいない。

フロー状態をより多く経験するためには、仕事と好きな作業が一致する事が重要であり、仕事が非常に楽しいという幸運な人達は、フロー状態を多く経験できる。どのような分野であれ、優れた結果を出している人は、こうした幸運な組合せに出会えた人だ。別に転職しなくても、フロー状態に達する道はいくつかある。1つは、能力の限界ぎりぎりの「なんとか達成できそうな」目標にチャレンジすること。もう1つは、情熱を燃やせる対象を選ぶこと。モチベーションがフローをもたらす場合も少なくない。ただ、どちらも注意を高める手段であって、いずれにせよ最終的には100%の集中を通過しなくてはフローに至らない。どのようにしてフローを達成するにしても、強い集中が決め手となる。

大切なのは、何かに没頭できること、全面的な注意を注ぎつつも基本的に受動的である事だ。感覚神経系をおだやかに刺激してやると、この状態が起こる。感覚神経系が活発になると、意識的な集中が沈静化する。

何かに能動的に没入すると、脳内のおしゃべりが沈黙する。呼吸法からマントラまで、特別な意味を持たない課題に集中する瞑想法は、すべて、こうした効果をもたらす。