イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき

発刊
2001年7月1日
ページ数
344ページ
読了目安
558分
推薦ポイント 42P
Amazonで購入する

Amazonで購入する

破壊的イノベーションによって巨大企業が失敗する理由
ハーバード・ビジネス・スクールの教授である著者が、「イノベーションのジレンマ」という逆説的なコンセプトを、学問的体系に基づいた緻密な論理構成によって実証している一冊。

事例として取り上げるのは、ディスク・ドライブや掘削機といった業界のほかに、ホンダが進出した北米市場やインテルが支配したマイクロ・プロセッサ市場など。それぞれの業界で起きた「破壊的イノベーション」を検証し、それに対処できない大手企業の宿命ともいえる法則を導き出しています。

優良企業が失敗する理由

優良企業が成功するのは、顧客の声に鋭敏に耳を傾け、顧客の次世代の要望に応えるよう積極的に技術、製品、生産設備に投資するためだ。しかし、逆説的だが、その後優良企業が失敗するのも同じ理由からだ。顧客の次世代の要望に応えるように積極的に技術、製品、生産設備に投資するからなのだ。ここにイノベーターのジレンマの一端がある。優れたマネージャーは顧客と緊密な関係を保つという原則に盲目的に従っていると、致命的な誤りをおかすことがある。

 

新規参入企業と実績ある企業の成功と失敗を分ける原因の中心には「バリュー・ネットワーク」という概念がある。企業はこのバリュー・ネットワークという枠組みの中で顧客のニーズを認識し、対応し、問題を解決し、資源を調達し、競争相手に対抗し、利潤を追求する。バリューネットワークの中では、各企業の競争戦略、とりわけ過去の市場の選択によって、新技術の経済的価値をどう認識するかが決まる。

各企業が、持続的イノベーションや破壊的イノベーションを追求することによってどのような利益を期待するかは、この認識によって異なる。実績ある企業は、期待する利益のために、資源を持続的イノベーションに投下し、破壊的イノベーションには与えない。このような資源配分の仕方が、実績ある企業が持続的イノベーションでは常にリーダーシップを取り続け、破壊的イノベーションでは敗者となった原因である。

 

実績ある企業は、破壊的イノベーションに直面した時、必要な技術を開発することには苦労しない。それどころか、マネージャーの意思決定を求める前に、新しいプロダクトが開発されている場合もある。しかし、競合する製品や技術の開発に少ない資源しか配分しないとなると、破壊的プロジェクトは頓挫する。ほとんどの場合、市場が小さく顧客の需要もはっきりしない破壊的技術より、企業にとって最も有力な顧客の需要に応える持続的プロジェクトが優先される。

 

「顧客の意見に耳を傾けよ」というスローガンがよく使われるが、このアドバイスはいつも正しいとは限らない。むしろ顧客は、メーカーを持続的イノベーションに向かわせ、破壊的イノベーションのリーダーシップを失わせ、誤った方向に導くことがある。

 

破壊的技術の5原則

経営者が新しい技術に取り組む時におかす最大の過ちは、破壊的技術の原則と戦い、克服しようとすることである。持続的技術では成功してきた従来の経営慣行を適用すると、破壊的技術では必ず失敗する。成功につながる最も有効な方法は、破壊的技術に関する自然の法則を理解し、それを利用して新しい市場と製品を生み出すことである。

 

①企業は顧客と投資家に資源を依存している

顧客と投資家を満足させる投資パターンを持たない企業は生き残れないため、実質的に資金の配分を決めるのは顧客と投資家である。業績の優れた企業ほどこの傾向が強く、顧客が望まないアイデアを排除するシステムが整っている。その結果、このような企業にとって、顧客がその技術を求めるようになる前に、顧客が望まず利益率の低い破壊的技術に十分な資源を投資することは極めて難しい。そして、顧客がそれを求めるようになる頃には、もう遅すぎる。

 

②小規模な市場では大企業の成長ニーズを解決できない

成功している企業は、株価を維持し、従業員に機会を与えるために、成長し続ける必要がある。会社の規模が大きくなると、同じ成長率を維持するためには、新しい収入の金額を増やす必要がある。そのため、将来は大規模な市場になるはずの小さな新興市場に参入することが、次第に難しくなってくる。

 

③存在しない市場は分析できない

投資のプロセスで、市場規模や収益率を数量化してからでなければ市場に参入できない企業は、破壊的技術に直面した時に、身動きがとれなくなるか、取り返しのつかない間違いをおかす。データがないのに市場データを必要とし、収益もコストもわからないのに、財務予測に基づいて判断を下す。

 

④組織の能力は無能力の決定的要因になる

組織の能力は、その中で働く人材の能力とは無関係である。組織の能力は、労働力、エネルギー、原材料、情報、資金、技術といった入力を価値の向上という出力に変える「プロセス」と、組織の経営者や従業員が優先事項を決定する時の「価値基準」によって決まる。人材などの資源と異なり、プロセスや価値基準には柔軟性がない。組織の能力を生み出すプロセスや価値基準も、状況が変わると組織の無能力の決定的要因になる。

 

⑤技術の供給は市場の需要と等しいとは限らない

製品の技術が進歩するペースは、時として主流顧客が求めるペースを上回ることがある。その結果、現在は市場の需要に見合った特徴と機能を持つ製品が、明日には主流市場のニーズを超える場合がある。企業は、競争力の高い製品を開発し優位に立とうとするために、急速に上位市場へと移行する。多くの場合、高性能、高利益率の市場を目指して競争する内に、当初の顧客の需要を満たしすぎたことに気づかない。そのため、低価格の分野に空白が生じ、破壊的技術を採用した競争相手が入り込む余地ができる。主流顧客がどのように製品を使うのかといった動向を注意深く見極める企業だけが、市場で競争の基盤が変化するポイントを捉えることができる。

参考文献・紹介書籍